エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 それは隣に住んでいる澪の声だ。

 以前あんなことがあり丸森社長を通じて釘を刺したにもかかわらず、まだこんな形でこの家に出入りできるのはどういう神経なのか疑いたくなる。しかし小さな頃からとなりに住んでいて多少の事には常に目をつむっていた。

 加美家でもそんな彼女を邪険にすることができずに、これまで通り受け入れている。しかし今はそんな状況ではない。

「澪、悪いが今はお前の相手をしてい場合じゃないんだ」

 しかし澪は清貴の低く不機嫌な声にも動揺せずに、逆に笑みさえ漏らす。

「あれ、もしかして菜摘さんがみんなの事だましてたのバレちゃったの? あの人やっぱり自分で白状したんだ」

 けらけらと笑いながら、驚くべきことを言う澪に、清貴の顔色が変わる。

「何か知っている口ぶりだな」

「え……」

 地を這うような声に、澪ははじめて自分が口を滑らせてしまったことに気が付く。あせった澪は目をあちこちと泳がせて言い訳を必死になって考えているようだ。

 しかし清貴は澪が言い逃れるのを許す気はなかった。

「知っていることを全部言いなさい。澪」

「知らない。私何にも知らないから」

 あくまでしらを切り通そうとする澪に、清貴は詰め寄った。

「本当だな。嘘をついていたら許さないからな」

 今まで見たことのないような清貴の剣幕に、澪は震えあがる。

 そのとき清貴のスマートフォンにメッセージが届いた。相手は画像の調査を依頼していた相手だ。さっとその内容に目を通して清貴は怒鳴りたくなるのを我慢して努めて冷静にその内容を澪に確認した。

「今日俺のスマホに菜摘の浮気をにおわせる画像が届いた」

 そこまで言うと澪の挙動がますます怪しくなる。目を合わせないのはもちろんそわそわと落ち着きがなくなる。

 いつもなら助けてくれるはずの祥子も、今日はさすがに澪を非難する視線を向けていた。

「送り先は、調査会社のひとつだ。ここまで言ってもまだ話す気になれないのかっ?」

 我慢の限界がきた清貴は語尾を荒げ、澪を糾弾する。

 調査会社とは名ばかりで、評判のよくない会社だ。金を積めばすぐに依頼人を明かした。

 いつも強気の澪も清貴の怒りにこれ以上黙っておけば大変なことになるとやっと理解したようで口を開いた。

「私悪くないもの。嘘をついていたのは菜摘さんじゃない」

「菜摘が? なぜそう言い切れるんだ!」
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