エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
 一刻も早く理由が知りたいと、澪に先を促す。

「だって私、見ちゃったんだもん。菜摘さんに子供ができないって言う証拠を。ほら、これ見て」

 澪は自分のスマートフォンを操作すると、清貴に画面をつきつけた。そこに表示されているのは菜摘が産婦人科で受けた検査の結果だった。

「どうしてお前がこんなものを持ってるんだ。ちゃんと話せ!」

 清貴がテーブルを拳で叩くと、大きな音が出た。澪はその音に肩をびくっとさせ声を震わせた。

「菜摘さんのあとをつけさせていた探偵から彼女が産婦人科受診したって聞いて、その後ここに来たから受診の理由がわかるかもと思ってここにきて見つけたの」

「澪ちゃんあなたあの日そんなことをしていたの?」

 さすがの祥子もこの事態には黙っていられなかったようだ。

「だってあの女が全部悪いんじゃない。私が清貴君と結婚したかったのに、横取りした。そのうえ跡取りが必要なのに子供ができないことを隠していたのよ。最低じゃない」

「澪、それ以上言うな。たとえお前でも許せない」

 怒りで清貴はその場に立ち上がった。

「そうよ、澪ちゃんあなたのやっていることは立派な犯罪です」

 ふたりから責められた澪は、ひらきなおったのかふてくされた態度を見せている。

「私はあの女の隠していた嘘を暴いたのに、どうしてこんなに怒られなくちゃいけないの? 悪いのは向こうじゃない。子どもができないならさっさと清貴君の前からいなくなるべきよ」

「違う、菜摘は悪くない。子どもができなくたって、問題ないんだ」

(そうだ、彼女は悪くない。悪いのは全部俺だ)

 跡取りが欲しいという理由で彼女にこの結婚をせまった。だから彼女は検査の結果子どもができづらいとわかり、離婚届を書いたのだ。

 やっと彼女が離婚を言い出した理由がわかった。しかしその理由はますます清貴をどん底へと突き落とした。

(一番最低なのは俺なのに、澪を責めるなんてお門違いだな)

「澪、俺にとって菜摘はかけがえのないものなんだ。子どもができなくて会社を継げなかったとしてもそれでも俺は子どもを産める誰かより菜摘を選ぶ」

「清貴君、どうして私じゃダメなの? ねぇ、ねぇってば!」

 澪が清貴の胸を拳で叩く。

「それは……お前が菜摘じゃないからだ」

 その言葉を聞いた澪の表情が凍り付き次の瞬間悲しみで満ちていく。みるみるうちにたまった涙が頬を伝った。
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