エリート御曹司に愛で尽くされる懐妊政略婚~今宵、私はあなたのものになる~
あのころの楽しかったことを、思い出すことができる。
傷ついた菜摘は無邪気に清貴のことを好きだったあの頃を求めて、吉峰の元を訪ねることに決めた。
恩師は菜摘のことを温かく受け入れてくれた。在学中も留学を家庭の事情であきらめなくてはならなかった菜摘をサポートし、彼女の学びを応援してくれた恩師。卒業後のことも心配してくれいくつか企業を消化しようとしてくれた本当に世話になった人のひとりだ。
逆境にも負けずに頑張る菜摘を、子供のいない恩師はまるでわが子のようにかわいがっていた。
だから菜摘の様子がおかしいことに彼は何も聞かずにこの地にとどまる提案をした。ちょうど地元で不登校の子供たち向けのフリースクールをはじめたばかりで人手が欲しかったようだ。
何度かあったことのある彼の奥様も、菜摘が手伝うのを歓迎してくれた。
近くのアパートを借りる保証人にもなってくれ、生活の基盤を整えるのを手伝ってくれた。
清貴との結婚の報告もしていたので、もし彼に連絡をしたらどうしようかと思った時期もあったが、吉峰は菜摘の気持ちを尊重して彼やその周囲に知らせることなく、菜摘が静かに暮らせる環境を作るのに尽力した。
こんなに迷惑をかけているにも関わらず、自ら彼に連絡をしてしまうとは申し訳ないと反省する。
ため息交じりにフリースクールの扉をあけると、数人の生徒が「菜摘さん、ここ教えて」とすぐに寄ってきた。
見せられたテキストを一緒に解いていく。こうやって子供たちに囲まれて過ごす一日はあっという間だった。何もかも忘れて誰かのために生きていくこと。それができればどれだけ幸せだろうか。
しかしふとした瞬間に菜摘の頭の中は、すぐに清貴の顔が浮かんでくる。半年たった今でも毎日だ。いつか忘れる日がくるのだろうか……菜摘自身もうその日がこなくても構わないと思っている。
思い出すたびに胸が苦しい。けれどそれでもやはり彼のことを覚えて痛かった。いつも自分から手放してきたけれど、これが菜摘の最初で最後の恋だ。だからずっと胸の中あればいい。
「宮城さん――」
「彼女は、宮城じゃない。加美だ」
吉峰に名前を呼ばれて振り向こうとした瞬間、別の声が割って入ってきた。
聞き間違えることなどないその声だったが、にわかに信じられずに顔をじっと見る。そこに立っていたのは紛れもなく清貴だった。
「き、清貴」
傷ついた菜摘は無邪気に清貴のことを好きだったあの頃を求めて、吉峰の元を訪ねることに決めた。
恩師は菜摘のことを温かく受け入れてくれた。在学中も留学を家庭の事情であきらめなくてはならなかった菜摘をサポートし、彼女の学びを応援してくれた恩師。卒業後のことも心配してくれいくつか企業を消化しようとしてくれた本当に世話になった人のひとりだ。
逆境にも負けずに頑張る菜摘を、子供のいない恩師はまるでわが子のようにかわいがっていた。
だから菜摘の様子がおかしいことに彼は何も聞かずにこの地にとどまる提案をした。ちょうど地元で不登校の子供たち向けのフリースクールをはじめたばかりで人手が欲しかったようだ。
何度かあったことのある彼の奥様も、菜摘が手伝うのを歓迎してくれた。
近くのアパートを借りる保証人にもなってくれ、生活の基盤を整えるのを手伝ってくれた。
清貴との結婚の報告もしていたので、もし彼に連絡をしたらどうしようかと思った時期もあったが、吉峰は菜摘の気持ちを尊重して彼やその周囲に知らせることなく、菜摘が静かに暮らせる環境を作るのに尽力した。
こんなに迷惑をかけているにも関わらず、自ら彼に連絡をしてしまうとは申し訳ないと反省する。
ため息交じりにフリースクールの扉をあけると、数人の生徒が「菜摘さん、ここ教えて」とすぐに寄ってきた。
見せられたテキストを一緒に解いていく。こうやって子供たちに囲まれて過ごす一日はあっという間だった。何もかも忘れて誰かのために生きていくこと。それができればどれだけ幸せだろうか。
しかしふとした瞬間に菜摘の頭の中は、すぐに清貴の顔が浮かんでくる。半年たった今でも毎日だ。いつか忘れる日がくるのだろうか……菜摘自身もうその日がこなくても構わないと思っている。
思い出すたびに胸が苦しい。けれどそれでもやはり彼のことを覚えて痛かった。いつも自分から手放してきたけれど、これが菜摘の最初で最後の恋だ。だからずっと胸の中あればいい。
「宮城さん――」
「彼女は、宮城じゃない。加美だ」
吉峰に名前を呼ばれて振り向こうとした瞬間、別の声が割って入ってきた。
聞き間違えることなどないその声だったが、にわかに信じられずに顔をじっと見る。そこに立っていたのは紛れもなく清貴だった。
「き、清貴」