23時のシンデレラ〜ベッドの上で初めての魔法をかけられて〜
まさか、その安堂不動産の御曹司とこうして出会って……婚約者として一緒に住むなんて……。
でも、そもそも安堂不動産の御曹司である颯が、どうして、私なんかを選んで婚約者にするのだろう……?

考えても考えても分からない。颯なら、私よりも、もっと綺麗な女の子や、どこかの社長令嬢等、いくらでも颯の婚約者になりたい子は、いるだろうに。

ーーーー『一目惚れした』

颯の甘い声と、あの綺麗な瞳をみると、吸い込まれそうになって、何にも考えられなくなるのは何故だろう。

「ニャーン……」

気づけば、洗面所の扉が完全に閉まってなかったのか、ミャーが私の足元に絡みつく。 

私は、抱き上げてミャーを膝に乗せた。

「私もミャーも拾われちゃったね……」

「そ、一回拾ったら、基本的に俺、手放さないから」

扉の方から、少し高めの甘い声が響く。

スーツに着替えた颯が、洗面所に入ってくると、そのまま、後ろから私をミャーごと抱きしめた。

「は……颯」

心臓が、ドクドク音を立てるのが自分でも分かる。きっと颯にも聞こえてるんだろう。

「俺、本気だから。早く美弥も、俺に本気になれよ」

颯は、形の良い唇を私の耳元に寄せると、ニッと笑った。

途端に颯から、目が離せなくなる。颯の仕草も視線も、甘い声も、全部が、私を溶かして支配していきそうだ。

「……離して……」

鏡越しに真っ赤な顔をした私を、愉快そうに眺めながら、颯が唇を持ち上げて、腕を解く。

「じゃあ、俺の婚約者、初出勤しますかね」

ーーーー颯が私の手を引いた。

こんなことが現実に起こるなんて。まるでシンデレラのように、私は23時の王子様に、恋に落ちていくのを感じていた。
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