溺れるくらいの恋を…君に
捕獲
「━━━━━じゃあ、これ…よろしくお願いします!」

百合愛は、小さなデザイン会社で働いている。
会社の同僚や上司とはみんな仲良く、とても充実した生活を送っていた。



この日の仕事を終え、退社し会社を出る。

「百合愛」

「あ、水瀬くん!」

「お疲れ!やっと出てきた!
一緒に帰ろ?」
水瀬に声をかけられた。

水瀬は、自身の車にもたれてずっと百合愛が出てくるのを待っていた。
「うん」

「ほら、返事も聞きたいしな」
「あ…/////うん…」


水瀬の車に乗り込み、会社を後にした。


百合愛はあの街コンから、水瀬にほぼ毎日のように口説かれ、先月交際を申し込まれていた。

しかし“ある過去の辛い経験”があり、返事をできずにいたのだ。


百合愛は、お世辞にも綺麗な女とは言えない。
可もなく、不可もなく……という、ごく普通の女だ。
名前負けしてるとよく言われているくらいだ。

もちろん、恋人がいたこともある。
その中でも、大学の時に付き合っていた彼が最悪な男だった。

彼の名前は、中屋敷(なかやしき) 一路(かずみち)
大学の同期だ。

大学二年の時に交際を開始し、二年間交際する中で一路は、百合愛を都合良く扱っていた。

もちろん浮気など日常茶飯事で、百合愛からの連絡は一切取らず自分がヤりたい時だけ呼びつけていた。
しかも百合愛に拒否権を一切与えず、断ると罵倒するような酷い男だった。

そして大学の卒業を期に、一路に一方的に別れを告げられたのだ。



「━━━━━百合愛が、トラウマがあるのは知ってる。
だからこそ、俺は支えたいんだ。
もう…そんな苦しい思いをさせないように」

水瀬の言葉が、身体に浸透していく。


水瀬となら……“普通の”交際ができるかも?
百合愛は、水瀬を真っ直ぐ見つめた。

「うん、私……
私で良かったら、よろしくお願いします!」
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