溺れるくらいの恋を…君に
「…………って言っても、お前にはわかんねぇだろうな」
水瀬が、一路を哀れむように言う。

「は?」


「だってお前“本気で”人を愛したことないだろ?」


「………」
「フフッ…図星だな(笑)
だから、お前には一生わかんねぇと思う。
あ、あとさ!」

「あ?」
「名前」

「は?」
「名前だよ!!
俺の百合愛の名前、気安く呼んでんじゃねぇよ!!」

「は?名前ぐらいで何を!」

「だからぁ!
本気で愛すると、独り占めしたくなんだよ!
虫酸が走るんだよなぁー、お前みたいな最低な奴に百合愛の名前を呼ばれるなんて」

「あ?てめぇ、喧嘩売ってんの?」

「は?相手にもしてねぇし。
俺は、お前みたいにレベル低くねぇもん!
だって、そうだろ?
女相手に好き勝手やるって、姑息じゃん!
弱い奴じゃなくて、強い奴を相手しろよ?」

「てめぇ……」
胸ぐらを掴む、一路。

しかし水瀬は、全く抵抗しない。

「殴りたいなら、殴れば?」
「は?」

「ただ、言っておく。
俺の百合愛を傷つけた落とし前、ちゃんとつけてもらうから」
「は?」

「いいか!
俺は、お前みたいに後ろめたいことは何もない」
「━━━━!!!!?」

「言ってる意味、わかるよな?」

「お前。何を知ってんだよ………」

「ここで言っていいの?」

一路は工場の金をこそっと私用で使ったり、女性社員にはセクハラは日常茶飯事で、中には強姦まがいなこともしていたのだ。


「あ、いや……」

「フッ…急にしおらしくなっちゃって(笑)
ウケる~(笑)」

一路は、ゆっくり水瀬の胸ぐらから手を離した。
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