一番前の席のあなたを

まだ、あなたを見つめていたい。

私たちは、中学三年生になった。


春の暖かい空気が鼻をくすぐる。



クラス替えの紙が貼り出されている。



ちらりと、覗く。



私は……
『D組だ。』


ハッ……。
出席番号順に見覚えのある名前が……。


『嬉しい…。』
『同じクラスなんだ。』
私は、少し微笑んだ。


私、松川梨夏(りか)は、早瀬みずきちゃんと同じクラスになりました。



『ありがとう!!神様!!』

教室に着くと、他の生徒も友達と話していたり、笑いあっていたり、席に座って本を読んでいる生徒もいた。



『私…実は、
新しいクラスとかが苦手で…。』
『せっかく、友達になったのに
離ればなれになって、
廊下でばったり会ったときに、
こっちは友達だと思っていたのに、
素っ気ない反応だったりする場合の方が多くて…。』
『だから、いつもビクビクしてた…。』
『私の存在が忘れ去られてる気がして。』
『だから、無理やり一緒に居たり、挨拶したり…。』
『でも、肝心な好きな人には、挨拶すら出来てないんだけどね……。』


なんて、心の中で会話をしながら、私は席に着いた。


鞄を机に置く。


辺りを見渡す。
中学2年で同じクラスだった
女子生徒(あまり話したことはないけれど)が居た。


私は、1人になりたくないからその子に話しかける。


その子と私の席の近くで、話しているときに
あなたが教室に入って来たのが見えた。


『久しぶりに見る彼女は、
少し髪の毛は伸びていたけれど、変わらず綺麗でかっこ良かった。』
『大人っぽい顔を元々していたのだけれど、
やっぱり、彼女は、素敵だった…。』



そう思いながら、目を合わせる自信もなく…、その女子生徒と話を続けていた。

そうしていると、
あなたが、声をかけてくれたんだ。


「松川さん。」
あなたが、私の名前を呼んでいる。


「ん…。」
私は振り返った。
ハッ…。
みずきちゃん…。
でも…、前みたいに、りかちゃんって呼んでくれなかった。
さん付けって、距離があるように感じてしまって、苦手なのである。

まぁ、実際、中学1年のときに、少しだけ話す程度だったから仕方がないのかもしれない。
1年のブランクもあったし、
馴れ馴れしくするのもって思っていたのかもしれない。


けれど、私は嬉しいような、寂しいような
妙な感覚だった。


「あっ…。」
私は、ただ、声のした方に体を向けて、笑うしかなかった。
名前さえも呼べず……。
それに、きっと友達もいるだろうに…。
どうして、私に…?って思っていた。


内心、本当は、名前で呼びたいし、たくさん話もしたかった。
けど……こんな私とじゃ…。
って自分で自分を閉じ込めてた。
中二病を引きずってた…。
中二の時にあったことを、今でも引きずっていて、自分が傷つくくらいなら、最初から無かった方がいいって思い込んでいたんだ。

「松川さん、中1の時同じクラスだったよね?」
「覚えてる?」
そう、あなたが言う。


「うん!」
私は、うなずく返事で精一杯だった。
嬉しすぎて、もっと話したいけど、引かれたら困るから…。


中二の頃、私は、放課後の近くになるにつれてテンションが上がるタチであって、
その調子で、テンション上がったまま、友達だった人に、
ものすごい勢いで、話しかけたりしたら、引かれてしまった出来事があって、それからは、
私の本当の性格を固く蓋を閉じ込めてしまったの。


だから、上手く話せなくて、
誰もが傷つかない終わり方で乗り越えようとしていた。

「今年も同じクラスだね!」
「よろしくね!」
みずきちゃんが、明るく笑顔で話した。



「うん!」
「よろしくね。」
私は、ニコッと微笑んだ。



それで、会話は終わり…。



みずきちゃんは、明るいし誰とでも仲がいい印象で私の憧れだったんだ。


私の持っていない所を
あなたは持っていて、
すべてが愛おしい気持ちだったんだ。



たまに、ひとりで本を読んでいる姿に、ドキドキしたり、
あなたは、一緒に居たいときと
ひとりでいたいときがあって、
でも、それが決して暗いわけでもなく、
自分というものを持っていて、
憧れていた。



私が、ひとりでいると、
傍からみたら、暗い人ってなっちゃうから…。


もう、すべてが、完璧で
羨ましくて、憧れていた。



『ただ、私は、あなたを影から見ることしかできなかった。』


けれど、中1の頃と、ひとつだけ進展したことがある。


それは…


「みずきちゃん、おはよう。」


「あっ!松川さん、おはよう。」



相変わらず、さん付けだけど、
挨拶を交わす仲までに進展した。


ほんの少しのことだけど、
私には、それがすごく嬉しかったのを覚えている。


5月になると、修学旅行がある。


私とみずきちゃんは別々の班になった。


あなたは、着物を着て、外を歩いている。

とても、美しかった。


私は、こっそり外の風景を撮るフリをして、あなたをカメラに納めた。


これが、私にできる精一杯の告白だった。



いろんな行事があり、
最高の一年だった。
こんなにも、楽しい学校生活が送れるとは思わなかった。


私は、相変わらずあなたと挨拶をするだけの毎日だけれども、
それでも私の心は満たされていたのだから。



中学三年となると、受験がある。


私とあなたは、別々の高校に行くことを知った。



けれど、仕方がないよ。
私とあなたとは、全然違うのだから…。



でも、残りの学校を楽しもうと心に決めた。

そんな、1月を迎えたある日
席替えがあった。


私とあなたは近い席になった。


ものすごく嬉しかった。
けれど、その嬉しさを顔に出さずにいた。


『もし、好きってことが気づかれてしまったら、
きっと、あなたは挨拶もしてくれなくなるだろう…。
きっと引かれてしまうだろう…。』


そう思った。
この想いはずっと、胸に秘めておこう。と決めた。

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