green mist      ~あなただから~
 はあー
 シュー シュー

「こんにちは。どうかしたかい? なんだかいつもより、元気がないみたいだけど……」

「あっ、こんにちは。そんな事は無いです…… 少し疲れているのですかね?」

「まあ、若いうちは色々あるだろうから。でも、そんなに自信のなさそうな顔しなさんな」

 いつものように、おじいさんは銀行の番号札を手にしてソファーに座った。

「そんな顔してますか? 恥ずかしい……」

 両手を顔に当てた。


「ねえちゃんただいま」

 ランドセルを背負った良介くんが元気よく入ってきた。

「良介くん。お帰り」

「どうしたの? 合コンでなんかあった?」

 良介君は、眉間に皺をよせて子供らしくない顔を向けた。


「良介君。どうしてそんな事を知ってるいの?」

「ねえちゃん、自分でおじさんに話していたよ。それに、この前、電話した時に、駅前の居酒屋だって言っていたよ」

「そうだったわね……」

 シュー シュー

「ねえちゃん、大丈夫? それお花じゃないよ」

「えっ?」

 霧吹きが窓に向かって、水しぶきを上げていた。


「おやおや」

 おじいさんと良介君が、床と窓の水滴を拭いてくれた。

「ねえちゃん、今日はおじさん来てないね。珍しいなあ」

 良介くんの言葉に、胸がドキッと跳ねた。

「そう? 忙しいから、しばらく来られないって、言っていたわよ」

「そうなの? ねえちゃん、おじさんと合ったの?」

「えっ…… 先週、そんな事、言っていた気がしただけよ」

「ふーん」

 素直に納得してくれた事に、ほっとした。


 それから、彼は銀行には来なかった。それでも、何も変わらず日常は流れていて、おじいさんとお話して、良介君と字の練習をする。

 彼も、忙しく、何も変わらない日常を送っているのだと思う。私の心だけが、なんだ霧がかかって潤わない。



 その日は、珍しく、おじいさんも、良介君も来なくて、その上、植物達にもトラブルが出ていた。

 裏口に置いてある大きなパキラに虫が付いてしまったようで、裏口から外へ出した。

 裏口からだと、建物と建物の間を通った方が駐車場へ近いため、パキラを抱えて通りに入った。

 わずか十メートルほどだが、この隙間を通る人はあまり居ないと思うが……

 何故か、後ろに人の気配を感じる……

 嫌な感じがする、急ごう……
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