green mist      ~あなただから~
「ねえ、ねえ、ちょっと待ってよ。香音ちゃん。俺だよ、俺」

えっ? 私の名前? 
振り向くと、そこには知らない男の人がいた。暗いせいかよく見えない。

薄気味わるい。とにかく大通りに出ようと、向きをかえたが、ガシッと腕を掴まれた。


「覚えてない? ほら、この間一緒に飲んだじゃん」

 その男が、ぐっと顔を近づけてくる。

「ああ…… あの時の……」

 合コンで、弁護士志望と言った男の人だ。名前すら思いだせない。


「そうそう。思い出してくれた? 二次会も行かないで帰っちゃって、俺、けっこうショックだったんだよ。もっと、仲良くなろうと思っていたのにさぁ」

 その男は、ニヤリとして私の頭の先から足元までを、いやらしく見た。


「ど、どうしてここにいるんですか?」

「ああ…… 観葉植物のリース会社に勤めてるって言ってたじゃん。鉢植え持って歩いている子がいるなあと思って、もしやと思って、後つけてきたの」


「そうなんですね。あの、私仕事中なので……」


 腕を振り払おうとしたが、手を放してくれない。


「そう言わずに、ちょっとぐらい、いいじゃん。俺さ、そこのパチンコ屋で、えらく負けちゃって、むしゃくしゃしてんだよね。ぱーっと一緒に遊ぼうよ。楽しい事しようぜ」

「い、いえ、結構です」


 こんな建物の間じゃ、誰も通る事もないし人の目にすらつかない。


「すぐ、そこに車があるんだ、乗れよ!」

「嫌です!」


 必死で、手を振り払おうとした瞬間に、抱えていた鉢植えが落ちてしまった。

 ガッシャーン!!
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