たとえ星が降らなくても【奈菜と南雲シリーズ③】
彼女は仕事ではミスをしなかった。
仕事が早いとは言えないけれど、丁寧な仕事ぶりでミスが無い。
彼女は完璧に自力で、職場での信頼を得た。

(仕事以外はぼけっとしてるクセにな)

普段はうっかり者のくせに、仕事中は真逆。そんな彼女のギャップに、目が離せなくなった。ハマっていたと言った方が正しいのかも。

仕事に向き合う彼女の真剣な顔が、俺に対する時はひとりの女の子の顔になる。その瞬間がたまらなくて、気付いたら何かと彼女をかまうようになっていた。

子リスみたいな彼女が、大きな瞳で俺を見上げるのが見たくて。俺よりも頭一個分小さな彼女が、頬を染めながらムキになって向かってくるのを見たくて。

おっちょこちょいな彼女に、名前を文字った「ハチ」というあだ名をつけたのは、俺だけの呼び方が欲しかったせいかもしれない。

自業自得かもしれないけれど、俺のそんな態度のせいで、喧嘩友達のような関係が長い間続いていた。
けれど少し前、長い間燻っていたこの関係を変えようと腹を決めた。それは、彼女の変化からだった。

もともと可愛い容姿をしていた彼女。だけど最近、妙にキレイになってきた。
そんな彼女に他のヤツらも気付き始め、あちこちで彼女にアタックしようかという囁き声を耳にするようになったのだ。

(ここまで来て、他の奴に取られるわけにはいかないんだよ)

チャンスは逃さない。
それは二十六年間生きてきた俺の、揺るぎないポリシーだ。
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