たとえ星が降らなくても【奈菜と南雲シリーズ③】
***


制限時間いっぱいまで料理を楽しんでから店を出た。ホテルのロビーを通って駅に向かう出口へと向かう。

「はぁ、お腹いっぱい……」

片手をポケットにつっこんで歩く俺の隣で、奈菜がため息をつきながらそう言った。

「食い過ぎだろ」

「だって、すっごく美味しかったんだもん」

「それにしても、最後のプリンが余計だったんじゃないのか?」

「プリンじゃなくて、“クレマ カタラーナ” !スペインのクリームブリュレだよ」

「どう違うのか全然わっかんねぇ……」

「もう……」

呆れたように肩を下げた奈菜が、ふっと顔を窓の方へ向ける。
ロビーの外に面した全面ガラスを、ぽつぽつと雨粒が叩いている。さっきよりは雨脚が弱まっているけれど、まだ止みそうにはない。

彼女がふぅっと小さくため息をつくのを、俺は聞き逃さなかった。

「まだヤサグレてんのか?雨が降ってもビアガーデンは満喫しただろ?」

「別に、……ビアガーデンは満足したよ」

「そうか?」

「そう。……ただ、今日はせっかくの、」

「七夕な、」
「『七夕なのに』、だろ?」

「え!?」
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