たとえ星が降らなくても【奈菜と南雲シリーズ③】
話しながら歩いているうちにロビーを通りすぎ、エントランスの自動ドアが開いた。雨足はさっきよりは弱まっているが、止んではいない。だけど駅までは商業施設の通路と屋根のある歩道を通るから、濡れる心配はない。

傘を広げることなくエントランスから一歩踏み出した時、奈菜が俺の方を見上げた。

「雨だけどビアガーデン楽しかった。誘ってくれてありがとね、南雲」

そう言って、はにかんだ笑顔を浮かべた彼女に、また心臓が騒ぎ始めた。

奈菜のこういうところだ。敵わないな、と思うのは。
どんなに憎まれ口を叩いても、俺の揶揄(からか)いにムキになっても、こういう大事なことは忘れない。そんな彼女だから、ますます好きになってしまうんだ。

「別に……俺が行きたかっただけだし」

敢えて彼女の方を向かず真っ直ぐ前を見たままそう言うと、隣から「ふふっ」と笑う声が聞こえてきた。

「なんだよ」

「ううん、なんでも、…ふふっ」

「なんかあるんなら言えよ」

「だって、南雲。私が毎年七夕を楽しみにしてるって知ってるから、今日誘ってくれたんでしょ?」

「…………」

図星を指されて黙るしかない。
だけど結局、黙ってしまったことで、すぐにそれが正解だと悟られた。

「だから、ありがとう。おかげで、雨だけど楽しい七夕になったよ」

「………なら、よかった」

「ふふっ、素直じゃないんだから」

「おまっ、こっちが黙ってたら調子に乗って!」

くすくすと笑う彼女の髪を、仕返しとばかりにグシャグシャっとかき回してやった。
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