たとえ星が降らなくても【奈菜と南雲シリーズ③】
「ああーーっ!何すんのよ、もう!グシャグシャになっちゃったじゃない……」

「もう帰るだけだけど」とぼやきながら、彼女は一つにくくっていた布製のゴム(シュシュというらしい)を解く。栗色の髪がふわっと肩に広がって落ちる。柔らかそうな髪がくすぐっていく、白くて細いうなじから目が離せない。

髪をくくり直す為に上げた彼女の手首を、俺はとっさに掴んだ。

「な、なぐも?」

突然手首を掴まれてぎょっとしたのか、彼女が目を丸くしている。
じっと見つめると、「ど、どうかした?」と少し焦った顔で言う。
俺はそれには何も返さず、彼女の手首を握っているのとは反対側の手。ずっとポケットにつっこんだままだったそれを、ゆっくりと引き抜いた。

「手。出して」

「え?」

「手のひら。出して」

「ん?こう?」

彼女は俺に掴まれているのとは逆側の手を、手のひらを上にして俺の前に差し出した。

「南雲?」

疑問符が沢山飛んでいるのを感じながら、俺は敢えて彼女の顔を見ずに、小さな手のひらの上に、握っていたものをポトンと落とした。

「え、……こ、これ」

突然手のひらに乗せられたものに驚いている彼女に、俺は一言「やる」と口にした。
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