ポケットにあの日をしまって
2 傘もささずに

蒼司side 立ち尽くしていた

降りしきる雨を見上げて、彼女は笑っていた。

両手を高く、空に向けて、雨に打たれながら。

部活の帰り、寄り道した高台。

俺は傘を差し出すのも忘れ、彼女をみつめていた。

何が嬉しくて、ずぶ濡れで笑っているのか。

彼女をみつめながら、考えていた。

あと数日で4月になるというのに、体の芯まで冷え込む雨の日だった。

声も立てずに笑って、空を見上げた彼女の姿は透き通るほど綺麗だった。

傘越しに聞こえる雨音は一定のリズムで、体に伝わってくる。

声をかけなければと思うのに、俺は壊れたロボットのように、動くことも話すこともできなかった。

グレーのジャケットに、グレーを基調にした膝上丈のチェック柄スカートには見覚えがあった。

俺の通う高校の女子の制服だ。

小鳥遊茉莉(たかなしまつり)、名前だけしか知らない同級生だった。

俺は時間を忘れて、いつまでも立ち尽くしていた。
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