ポケットにあの日をしまって
「沈黙は金なり」と言う言葉もあるようだが、彼女に限って言うなら、それは当てはまらないのに……。

ほんの少し彼女の事情を知ってしまった俺は複雑な気持ちだ。

母の見舞いで彼女とは病院の総合待ち合いでよく出くわす。

彼女は診察の後なのか、治療の後なのか、いつも顔色が優れなかった。

「仁科くん。お母さん、まだ入院してるの?」

「ああ。でもリハビリが始まった」

クラスメイトのよしみで、ついチラ見してしまうせいか、どちらからともなく話しかけるのが常になった。

「そう。お姉さん、外科の看護師さんだよね。家事当番、ほとんど仁科くんが?」

「あはは。まあな、仕事だから仕方ないさ」

俺が笑うと彼女も笑う。

こいつは笑顔でいるのがいいーーと思うが、笑えない時は笑わなくていいんだぞと、言いたくなる。

「小鳥遊、大丈夫か? 具合悪そうだけど1人で帰れる?」

「ありがとう。大丈夫」
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