ポケットにあの日をしまって
彼女は気だるそうに、肩で息をする。

「治療薬のせいで、代謝が不安定なだけだから」

「んーーと、その……吐き気とか眩暈とかふらつきとかもあるんだろ?」

「あっ……仁科くん、詳しいんだね」

彼女は顔を向け、否定せずに大きく目を見開いていた。

「試験前にテレビ番組、観たんだ。姉ちゃんの解説つきで」

「じゃあ、わかっちゃったね」

俺はただ、頷くしかできなかった。

「何でだろ……手術の前の日には悲しくも辛くもなかったのに。傷痕を見るたび、薬を飲むたび、なんとも言えない気持ちになるの」

ポツリと漏らした彼女の呟きに、そりゃそうだろう、当たり前だ思う。

2つあるものが1つしか無くなり、傷痕が残されたーー。

悲しくないほうが、辛くないほうがどうかしている。

「その……失ったから、その存在に気づいたんじゃないのか? あるのが当たり前だった物が今は無い。それに気づいたから、だから」
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