ポケットにあの日をしまって
その程度だった、あの雨の日までは。

空席をみつめていると、担任が教室に入ってきて、号令をかけた後、出席番号順に出欠を取る。

「小鳥遊茉莉……彼女は暫く欠席だ」

担任は抑揚なく、そう告げた。

「何で?」

「あーーちょっとな」

担任は面倒なことを聞くなよとでも言いたげに、視線を生徒たちから反らし、ボソリと呟いた。

「ちょっとなって?」

「……病欠。詳細は聞くな」

担任は出席名簿に目を落としたまま、不機嫌そうに言うと、出欠確認を再開した。

やっぱり雨に打たれて、風邪をこじらせたのか。

俺はその程度にしか思っていなかった。

「茉莉、着替えないの?」

「うん、見学だから」

小鳥遊茉莉は5月の連休明けに、(ようや)く登校してきた。

中間考査の日程が発表になり、クラブ活動が一斉休みになった日だ。
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