ポケットにあの日をしまって
試合後、応援団に向かって深々と礼をした。

たくさんの歓声に混じって、小鳥遊の声も微かに聞こえた。

更衣室に向かう途中で、忘れモノをしたと引き返した。

小鳥遊は試合の余韻に1人浸るように、観覧席に座っていた。

「小鳥遊」

俺の声にサッと立ち上がった小鳥遊は「やったね」と拳を上げてピッと、親指を立てた。

「小鳥遊、返事は?」

「うん。よろしく」

笑顔で言った後、「負けてもOKするつもりだった」と呟いた。

「仁科くん。写真撮ろうよ、ツーショット」

リーチの短い小鳥遊は俺にスマホを握らせて、真剣な顔で画面の調節をさせた。

「イチタスイチハニー」

何だそれ、思わず笑ってしまった瞬間、シャッター音が鳴った。

撮った写真を確認して、「忘れモノしたふりして戻ってきたんだ」と伝えた。

「早く行かなきゃ」

小鳥遊に急かされ、「後でな」と更衣室に走った。
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