2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~
一時間ほどの空の旅で着いたのは、リゾート地にあるホテルだった。

「ええっと、富士野部長?
ここでなにを……?」

「観光」

「……観光?」

言われた言葉が理解できなくて、思わず繰り返してしまう。

「今、観光って言いましたか?」

「ああ」

さっさと歩きだした部長のあとを追う。
私にあれだけの資格試験の命令を出しておいて、のんきに観光?
こっちはコンペの案が出なくてうんうん唸っているのに、ただの観光?
私の都合を考えない富士野部長に、ふつふつと怒りが湧いてくる。

「……あのですねぇ」

私から出た声は、恐ろしく低かった。

「すぐに弱音を吐いて文句言うかと思ったのに、紀藤は黙って頑張ってただろ?
だからご褒美。
あと、気分転換したほうがコンペのいいアイディアも出る」

一歩前で立ち止まった彼が、どんな顔をしているかなんてわからない。
ただ、その眼鏡の弦がかかる耳が、真っ赤になっているのに気づいてしまった。
……もしかして、照れている?
でも、なんで?

「それは……ありがとうございます」

しかし、そんな気遣いが嬉しくないかといえば嘘になる。
それに来週の試験はさほど、切羽詰まっているわけでもない。

「うん」

一緒に並んで歩きだす。
今度は、私の歩幅にあわせてくれた。
< 40 / 149 >

この作品をシェア

pagetop