2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~
美味しい鰻を堪能して店を出る。
たまに食べる安い鰻よりこっちのほうが断然美味しくて、ほんとに同じ鰻なのか疑いたくなった。
そのまま、また歩いて今朝のホテルから帰りもヘリコプターに乗る。

「はぁーっ、帰ったらコンペの書類、作らないとですね……」

今日の食べ歩きでなにかが掴めた気がする。
いいアイディアを出して、せめて一次審査は通過したい。

「紀藤なら絶対、採用されるアイディアが出せるだろ」

なぜか自信満々に言いきり、部長がプレッシャーをかけてくる。
これは、責任重大だ。

「外、見てみろ」

コンペのアイディアをぐるぐると考えていたところに声をかけられ、窓の外を見る。
眼下には街の明かりが、地上の星のように煌めいていた。

「綺麗……!」

「これを一番、見せたかったんだ」

私の肩越しに、部長も一緒に夜景を眺めている。
ふわりと、甘いラストノートの香りが私を包む。
すぐ近くに感じる彼の体温にどきどきした。

「富士野、部長?」

「ん?」

僅かに首を傾け、不思議そうに彼が私の顔を見る。

「あっ、えっと。
……なんでもない、です」

結局、なにも返せずにもじもじと俯いた。
今の台詞はいったい、なんだったんだろう。
まるで、好きな人相手のような。
部長にとって私は、ただの部下、で。
きっと私を磨いてくれているのは、似た境遇の私をただ同情してくれているだけ、で。
それ以上の理由なんてないはずだ。

ヘリポートが近づき、シートに座り直した彼を盗み見る。
私が彼の描く最高の女性になれたなら。
部長は私を、意識してくれるんだろうか。
なぜか、そんなことを考えていた。
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