2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~
「え?
ああ」

確認するかのように部長が眼鏡に触れる。
いつもは銀縁オーバル眼鏡の彼だが、今日は黒メタルのハーフリムだった。

「気分転換ですよ」

微妙な笑みを浮かべ、彼がワインを口に運ぶ。
三十二歳で部長なんてエリートなのに、富士野部長は年下の部下にも敬語で物腰が柔らかく、陰で私たちは〝ジェントル〟と呼んで慕っていた。
緩くオールバックにした髪と、優しげな目もとが紳士を思わせるからというのが理由だ。
しかし今日の彼は眼鏡が違うからか、シャープな印象を与えた。

「そういう紀藤さんもドレスアップすると、いつもと印象違いますね」

「そうですか?」

今日はスモーキーピンクの、ロング丈ワンピースを着ていた。
髪も会社よりも華やかにアップにしてある。
当然、メイクだって。
会社では無難な白ブラウスにパステルのフレアスカート、髪はいつもひとつ括りなんて私とは当然ながら違うだろう。

「はい。
今日はとても美しい……っと、これはセクハラですか?」

悪戯っぽく笑い、部長が片目をつぶってみせる。
おかげで一気に酔いが回ったかのように顔が熱くなった。

「いえ。
それに褒めていただいたのに悪いんですが、いくら着飾っても私には姉に敵わないので」
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