2番ではダメですか?~腹黒御曹司は恋も仕事もトップじゃなきゃ満足しない~
「……冗談、だったんだ」

部長と結婚できるって、部長は私が好きなんだって本気にした。
なのに、冗談で済まされるなんて酷すぎる。

「……富士野部長なんて大っ嫌い」

ポツポツと水面に滴が落ちてくる。
言葉どおりに本当に、嫌いになれたら楽になれるのに。
なれないから、こんなに――苦しい。

「……そっか」

私はこれほどまでに、富士野部長を好きになっていたんだ。

「あがりました……」

リビングへ行くと、ちょうど片付けを終わらせた部長がキッチンから出てきたところだった。

「ん、俺も……どうした?
目が赤いぞ?」

私の顔を見た途端、心配そうに部長の眉が寄る。
そのままつかつかと傍に来て、私の頬に触れた。

「あっ、えっと。
その、……シャンプーが目に染みて」

曖昧に笑って、誤魔化そうと試みる。

「本当か?
なんか変だぞ?」

しかし、部長はさらに心配そうに私の顔をのぞき込んだ。

「どうかしたのか?
悩みがあるなら言ってみろ」

どうしてこの人はこういうのは気づいてくれるのに、私の気持ちにはちっとも気づいてくれないのだろう。
もし、私が富士野部長を好きだと言ったら、彼はどうするのだろう。
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