結婚契約書に延長の条文はありませんが~御曹司は契約妻を引き留めたい~
「大原君が何か?」
「いいえ、秘書の仕事も大変ね。酔った役員の世話までさせられるだなんて。どうしてあんなになるまで飲んだのですか?」
「会食があって、一緒に食事をした相手がかなりの酒豪だった。勧められるうちについ飲み過ぎた。いつもならあれくらいで酔うこともないんだけど、今日は悪酔いしてしまった」
「無茶はしないでください」
「すまない」
「責めているのではないんです」
「しかし、前後不覚になって君にあんなことを・・たとえ夫婦でも許されることじゃない」
「殴られたわけでもありませんし、平気です」
「いや、殴るとかも絶対駄目だろうが、無理矢理もだめだ。それは最低の行為だ」
「セクハラでも、相手の受け止め方でセクハラかそうでないか分かれます。私がいいと言っているのですから、もう謝るのはやめてください」
確かに酔った勢いで手を出すのは、憚られる行為だが、謝られると、酷く悪いことをされたように思う。
それとも彼は後悔しているのだろうか。
離婚寸前に、子供が出来るかも知れない事態を引き起こしてしまったことを。
もし私が妊娠していたら、離婚できなくなってきまうのだから。
「しかし・・」
「もうこの話はおしまいです。ほら、早くシャワーを浴びてきてください。私も朝ごはんを作ります。インスタントですけど、蜆のお味噌汁飲みますか? 二日酔いにはいいそうです」
「あ、ああ・・ありがとう」
寝室を出て行く背中を和海がじっと見ていたことに、香津美は気が付かなかった。
「あ、携帯」
ダイニングテーブルに携帯を置きっぱなしにしていたのに気がついた。
画面を見ると充電が10%を割っていて、メールがあったことがわかった。
メールのひとつは加奈子からだった。
「ごめんなさい。また今度遊びに来てね」という文章と共に、子どもの寝顔の写真が送られていた。
そのあどけなさに心が和む。
自分も子供が欲しくなった。出来れば和海との子供がほしい。
好きな人の遺伝子と自分の遺伝子が結びついた子供が。
さっきはああ言ったが、本当のところはわからない。もしかしたら、可能性はある。
後のメールは大原弘毅からだった。それも三つ。
「大丈夫でした?」
一つ目は短い文章。
「ご主人と喧嘩しなかったですか?」
次にそんな文章のメールが続き、最後に
「もし何か僕の助けが必要ならいつでも遠慮なく言ってください。あなたのためなら、喜んで力になります」
和海から電話があって、直様彼と別れて帰ったので心配をかけたかも知れない。
なのに、彼といたことで和海からどころか、秘書の大原からあのように嫌味を言われるとは思わなかった。
香津美が男性といたことに電話の向こうから気づいた和海が、彼女に何か言ったのだろう。夫に内緒で他の男性と外で会う。
昼ドラの設定みたいな展開。
そんな安っぽい枠に自分は当て嵌められたのかと思うと、和海への気持ちを踏みにじられた気がする。
終わりを迎えかけた結婚を目の前にして、その先を切望している自分。
酔ったせいだって、求められれば喜んで体を開く。
すっかり体に刻み込まれた和海という存在。
見返りなど求めない。そう思いつつも、自分が彼に向ける気持ちのほんの一欠片でも、彼から気持ちを向けてもらえたらと、期待を抱く。
「ふ…」
知らずに涙がこみ上げてきて、慌ててキッチンペーパーで涙を抑えた。
和海はシャワーを浴びに行ったようで、浴室から音が聞こえる。
ポットに水を入れてお湯を沸かし、汁椀に即席み汁の素を放り込む。
その間に自分の朝食用にスクランブルエッグとウインナーでロールパンサンドを作った。ヨーグルトに冷凍カットフルーツを放り込み、コーヒーも作った。
和海がまだ髪を少し濡らしたまま、Tシャツとハーフパンツでリビングに現れた。
「どうぞ」
「ありがとう」
この風景も後少しなんどと思うと、一分一秒が愛おしい。
それも自分だけの感傷で、和海にはどう映っているのだろう。
「いいえ、秘書の仕事も大変ね。酔った役員の世話までさせられるだなんて。どうしてあんなになるまで飲んだのですか?」
「会食があって、一緒に食事をした相手がかなりの酒豪だった。勧められるうちについ飲み過ぎた。いつもならあれくらいで酔うこともないんだけど、今日は悪酔いしてしまった」
「無茶はしないでください」
「すまない」
「責めているのではないんです」
「しかし、前後不覚になって君にあんなことを・・たとえ夫婦でも許されることじゃない」
「殴られたわけでもありませんし、平気です」
「いや、殴るとかも絶対駄目だろうが、無理矢理もだめだ。それは最低の行為だ」
「セクハラでも、相手の受け止め方でセクハラかそうでないか分かれます。私がいいと言っているのですから、もう謝るのはやめてください」
確かに酔った勢いで手を出すのは、憚られる行為だが、謝られると、酷く悪いことをされたように思う。
それとも彼は後悔しているのだろうか。
離婚寸前に、子供が出来るかも知れない事態を引き起こしてしまったことを。
もし私が妊娠していたら、離婚できなくなってきまうのだから。
「しかし・・」
「もうこの話はおしまいです。ほら、早くシャワーを浴びてきてください。私も朝ごはんを作ります。インスタントですけど、蜆のお味噌汁飲みますか? 二日酔いにはいいそうです」
「あ、ああ・・ありがとう」
寝室を出て行く背中を和海がじっと見ていたことに、香津美は気が付かなかった。
「あ、携帯」
ダイニングテーブルに携帯を置きっぱなしにしていたのに気がついた。
画面を見ると充電が10%を割っていて、メールがあったことがわかった。
メールのひとつは加奈子からだった。
「ごめんなさい。また今度遊びに来てね」という文章と共に、子どもの寝顔の写真が送られていた。
そのあどけなさに心が和む。
自分も子供が欲しくなった。出来れば和海との子供がほしい。
好きな人の遺伝子と自分の遺伝子が結びついた子供が。
さっきはああ言ったが、本当のところはわからない。もしかしたら、可能性はある。
後のメールは大原弘毅からだった。それも三つ。
「大丈夫でした?」
一つ目は短い文章。
「ご主人と喧嘩しなかったですか?」
次にそんな文章のメールが続き、最後に
「もし何か僕の助けが必要ならいつでも遠慮なく言ってください。あなたのためなら、喜んで力になります」
和海から電話があって、直様彼と別れて帰ったので心配をかけたかも知れない。
なのに、彼といたことで和海からどころか、秘書の大原からあのように嫌味を言われるとは思わなかった。
香津美が男性といたことに電話の向こうから気づいた和海が、彼女に何か言ったのだろう。夫に内緒で他の男性と外で会う。
昼ドラの設定みたいな展開。
そんな安っぽい枠に自分は当て嵌められたのかと思うと、和海への気持ちを踏みにじられた気がする。
終わりを迎えかけた結婚を目の前にして、その先を切望している自分。
酔ったせいだって、求められれば喜んで体を開く。
すっかり体に刻み込まれた和海という存在。
見返りなど求めない。そう思いつつも、自分が彼に向ける気持ちのほんの一欠片でも、彼から気持ちを向けてもらえたらと、期待を抱く。
「ふ…」
知らずに涙がこみ上げてきて、慌ててキッチンペーパーで涙を抑えた。
和海はシャワーを浴びに行ったようで、浴室から音が聞こえる。
ポットに水を入れてお湯を沸かし、汁椀に即席み汁の素を放り込む。
その間に自分の朝食用にスクランブルエッグとウインナーでロールパンサンドを作った。ヨーグルトに冷凍カットフルーツを放り込み、コーヒーも作った。
和海がまだ髪を少し濡らしたまま、Tシャツとハーフパンツでリビングに現れた。
「どうぞ」
「ありがとう」
この風景も後少しなんどと思うと、一分一秒が愛おしい。
それも自分だけの感傷で、和海にはどう映っているのだろう。