甘い災厄

 邪魔だから大体は追い出して、横の方に布団を敷かせるのだが……まあ、なんというか、若干、押しと雰囲気に弱いぼくは、ほんのたまーに、ベッドに潜り込んだまつりに流されて、ちょっとだけああいう雰囲気になったりする。

誤解の無いように言えば、ぼくは普通に、健全な人間なのでまつりの距離感の無さに、限界を迎えて、ほとんどぼくが許しているようなもの。
あいつは、別に、くっついてくるだけ。
『人間』に興味があるだけで、べたべた、触るだけ。
まあ、だからほとんどが未遂に終わるし、まつりが先に寝てしまう。


べつに、そういう類いの強要をされているわけじゃない。まつりは、まつりの基準での可愛いものが好きなだけで、性欲も恋愛感情もないし、興奮もなにもない。
あいつは、切り刻むこと以外に、興奮を覚えない。

──なので、だからといっても別に、なにかが芽生えたりはしないから、関係にもさほど影響しないのだが、だからこそ、一方的に、変な気分になってしまうのも確かだった。

なんというか……

(あらゆる方面から、支配されていくような、感じ……)

だんだん、ぼくだけが感じる何かで、あいつに囚われていきそうな、気もする。
身も心も、あいつのものに、なっていくのだろうか────
そう考えて、それも悪くないと思ってしまう自分がいるのが問題だ。

ぼくらの関係は、終わりきっている。
末期的な、依存関係。

ときめくとか、ドキドキ、とか、そういう何かとは、もはや無縁。
そばにあるのが当たり前。無いと許せない。
それだけ。

だから。
何をされても、何をしても、互いに離れない。























 顔を洗ってからダイニングに向かうと、テーブルには、朝食が並んでいた。まつりが、無表情のまま「おはよー」と言うので、ぼくもおはようと返す。まあ、さっき会ったけれど。

「にしても、なにかあった? お前から、出掛けようなんて言葉を聞くとは思わなかったけれど」

聞いてみると、まつりは、怒ったように唇を尖らせた。
「夏々都が、最近遊んでくれないって、寂しがっているのを考慮したのに……」
そんな話をした覚えはない。だがまつりがぼくのことを考えてくれたというのは、それだけで嬉しいものだ。だから。

「そっか、ありがとう」
素直に、受けとることにする。まつりは嬉しそうに笑った。
そしてそれだけで、ぼくは一日、とても幸せな気分になる。まつりには、やはり、笑っていて欲しい。

「嬉しそうだね? 楽しみ?」

ぼくが、嬉しそうに見えているらしく、まつりが聞いてくる。ぼくは、うん、と頷いておく。
その間に、まつりは箸をつかんで、雑に手を合わせていた。聞いてないらしい。相変わらずマイペースだ。

「じゃ、いただきまーす」

□□

< 16 / 46 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop