甘い災厄
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朝食後。着替えて、なんとかバスに乗り込む。
まつりはしばらく、そわそわと窓を覗きこむ夏々都を観察していたが、だんだん、自分も一緒になってあれは何、これは何とはしゃいでしまった。
二人とも、あまり世間に詳しくない。
しかしまさか、「お屋敷から出たことが無くて、つい最近まで外のことなど知りませんでしたー」、なんて言えない。
ますます白い目で見られると思うから言えやしないし、夏々都も自分の事情はあまり話したくないはずだ。
世間知らずな人間は、大抵「そんなことも知らないの?」という目で見られるが(聞く人を間違えると、これまで他人にバカにされてきた仕返し、とでもいうように、やたら威張ってくるやつに絡まれて厄介だ)
ただ、最近ではネットがあるので、洗濯の仕方も郵便局への行き方も、人に聞かずに理解出来てまつりは大いに助かっているのだった。
夏々都は機械が苦手らしいから使わない。
静電気というか、なんというか、彼は独自の電磁波のようなものを帯びており、たびたび機械を狂わせてしまうのだ。
特に、最新のもの──より多機能を備えるものとの相性が最悪だった。
「着いたらお昼にしようね」
まつりが左を見ながら言うと、窓際の彼は、楽しそうに頷く。
「何が食べたい?」
「んー……」
彼は、首を傾げて考えるようにする。
「丼かな」
「わかった、駅弁だね!」
「わかってないだろ……」
「駅に着いたら、駅弁買って、それから丼屋さん行こう」
「わかった」
夏々都は安心したように頷いた。そのまましばらくは、昼飯について話し合っていた。
のだが──まつりは、ふと、夏々都を抱き締めてみようと思い付く。
たぶんあれから愛情度が増しているはずなので、多少、いちゃいちゃしても問題は無いのではないか。
脳内で「あっ、いけません、ご主人様っ……」と恥ずかしがる夏々都を想像する。誰も見ていないよと囁くと「ん……でも、こんなの。ぼくは、仕える身……ご主人様と、対等になんて」と悩ましげに微笑む夏々都くん。