甘い災厄
……。
「ほら、お弁当も作ってたし!」
「え? 混むのやだからって予約したレストランで食べるんじゃないのか?」
チッ。
記憶力が細かい夏々都は、逆にいえば、こういうときは融通が利かない。今さっき言われたかのように、先週の台詞から何から、事細かに持ちだしてくる。
夏々都が小学生の頃など、学校でよく、担任になった先生と相性が悪かった(というか、向こうからやたら苦手意識を持たれた)のは恐らくこのためだ。彼には悪気はなく、会話に持ち出す記憶の範囲が人よりも多いのだ。
そしてそれに気付くのは、なかなか大変なことだ。相手も、自分をよく見せようと見栄を張り、または気を使って、本当のことを話さないことが多いのだから。
彼に言わせれば「ごめん覚えてない」と、素直に認める人間は、なかなか居ないもので、別に悪いことをしているわけじゃないのに、どうして彼らは誤魔化すんだろうかと、聞かれたことがある。