甘い災厄
人のせいにばかりするのはよくないが、でも、そういう人ばかりだから、分かりにくくなるのも確かに一理あると思う。
まつりにも、そういうことは、あった。
明らかに出来ないくせに「出来ます」と安請け合いする人間がいるのだ。
統率していたとき、まつりは彼らの理解に、結構苦しんだ。
出来ないと言っても、別に、事実は事実だ。
だからと言って簡単にバカにするほどまつりのプライドは安くないし、心に余裕が無いわけではなかったのに。
そしてその誤魔化しを、信じても、やっぱり結果は見えているもので──
夏々都は沢山の友人に気味悪がられ、まつりは沢山の知人に恐れられた。
どうして嘘をつくんだろう?
無能はそんなに、嫌なのだろうか。
だったら、なぜ、その弱点自体には向き合わずに言い訳して逃げてばかりいるんだろう? 矛盾した彼らが、理解出来なかったものだ。
(まあ、あれからしばらく経って、今は、それも少しだけわかるような気もする……)
能力差は、結局《見えない厚い壁》になるのだ。
──まつりたちのような者に対し、彼らはすぐ《人間味がない》という言葉を使いたがる。
完璧で人間味がない。と。完璧だと人間味が無いというのが、まつりはよくわからない。
失敗が人間味で失敗ばかりするのが人間なら、人間はなんのために学習をするのか?
それは無意味なのか?
よくわからない。人間味を無くすためではないはずだし、人間味を無くすために勉強するわけじゃないだろう。
出来る人も出来ない人もいる、それだけだろう。
「まあ、でも、つまりは理解出来ないような存在に何を言っても言われても、無駄だと、思われていたのだろうね」
まつりは、彼らには、同類ではない異次元の存在だったのだ。
そんなの、勝手に決め付けてるだけじゃないかとまつりは言いたかった。でも、まつりのような立場の人間が──《何を言っても、自分には関係ない》としか、思われない。
ふと、夏々都が「え?」と聞き返してきて、気付く。
そうだ。今、会話をしていなかったんだ。
「いきなり、なんの話?」
「なんでもない」
まつりは適当にそう言う。そのすぐに、夏々都はまつりから布団を取り上げて、無理矢理起こした。
「あっそ。とりあえず起きないと、遅れるよ」
無表情だが心なしかウキウキして見える夏々都。なんだか愛しい。
旅行は嫌いかと思っていたが、もしかして、少しは楽しみにしてくれているのだったら、嬉しいと思う。