佐藤 VS 佐藤
「え、行成先輩?」
「うそ、なんで?」
女の子たちがこそこそと交わす言葉は、静かな教室に響いて。
本人は小声のつもりだったんだろうけど、丸聞こえ。
ドサッ
アイツはそのまま 教室中の視線を気にも留めない様子で歩き、乱暴に鞄を下ろすと、
1つだけ空いていた、あたしの隣の椅子に腰を下ろした。
――正直、驚いた。
絶対に来ないと思ってたから。
間違いなく、どこかの女の子と一緒に遊んでるんだ、って。
来てほしくない気持ちもあったけど、来てくれたことで助かったのも事実。
心の中で謝りながら、チラリと視線を向ける。
思いのほか距離が近いことに驚いたけど、思ったより嫌悪感はなかった。
たぶん、こんなに近くにいるのは、小学校以来。
整った顔は昔から。
綺麗な茶色の瞳に、それを縁取る長いまつげは、そのへんにいる女の子より綺麗。
けれど、髪の色も、左耳に光るピアスも、昔とは違う。
昔は変わらなかった背も、会わない間に差をつけられた。
――あの日から、7年。
いつの間にか『男の子』から『男の人』に変わっていたアイツは、今、
すごく近くて、すごく遠い。
「…じゃあ、全員揃ったところで始めたいと思います。今日は…」
議長の話を聞きながら、あたしは不覚にもずっとアイツのことを考えていた―。