佐藤 VS 佐藤



「…おい。」


隣からの低い声で我に返る。
ぱっと横を向くと、アイツがあたしの方に体を向けていた。


「どーすんだよ?」

「へ?何が?」

「…お前話聞いてなかったろ。」


不機嫌そうに細められた目が少し怖くて、焦る。
慌てて辺りを見渡すと、議長の話は終わっていて、他のクラスの子はそれぞれ『何か』を相談し合っていた。
…どうやら、何かを決めなければならないらしい。



「…なに、アイツのこと好きなわけ?」

「はい?」



アイツって?と聞き返そうとすると、「あれ。」とだけ言った彼は 顎を使って前方を示した。


「?」


示された方向に目をやったあたしは、想像もしていなかった答えに「え。」と間抜けな声が出る。

そこに立っていたのは…、議長。


――名前すら、忘れてしまった人だった。


「まさか。」


当たり前のように否定の言葉が出たけれど、「じゃあ何考えてたの?」と聞かれたら絶対に答えられない。

だって、「あんたのこと考えてた」なんて、言えるはずない。
内心焦っていたあたしを尻目に「ふーん」と どうでもよさげな声が聞こえた。


…そりゃ、そうだよ。
アイツにとって、あたしが誰のこと考えてようと、関係ない。
どうでもいいに決まってる。

少しだけ安心したけど、少しだけ寂しかった。

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