佐藤 VS 佐藤
せめて、誰か教室にいますように。
そんな願いすら叶うことはなくて、放課後の教室には今、あたしとアイツ2人だけ。
――アイツは教室に入るなり、あたしを自分の席の後ろに座らせて。
そして、そのまま自分の席に後ろ向きに座る。
机に両腕を置き、その腕に顎をうずめるようにしているから、
手元を見るとどうしても顔が視界に入ってくる。
…気まずい。
そんな思いには気付く様子もなく、アイツはあたしが分担箇所を書くルーズリーフを黙って見つめていた。
「…。」
どうやっても視界に入るアイツの顔は、鼻から上しか見えないけど。(腕にうずめられているから)
それでも、肌が綺麗なのとか、まつげが長いのとか、無造作にセットされた髪が意外と細くて柔らかそうなのとか、
いやというほど、はっきり分かる。
(心臓に悪い…。)
アイツのことは嫌いだ。
でも、アイツの外見がいいのも、わかってる。
…だから心臓がうるさいのも、普通の女の子として仕方ないことなんだ。
心の中で自分に言い聞かせながら、ペンを動かした。
「…。」
アイツはただ見てるだけで、あたしが悩んでペンを止めても、何も言わない。
その沈黙を破ったのは、
ぐぅぅぅ…
「…え?」
おなかの、音。