佐藤 VS 佐藤
「れんは、いい人いないの?」
『うらやましくてしょうがない』と、顔に出てしまっていたのか、渉がにっこりと笑う。
「いない、かなぁ…。」
改めて考えるまでもなく、誰もいない。
『好きな人』なんて、いつ いたんだっけ。
少なくとも、高校に入ってからは1人もいないような気がする。
――そう考えたら、やっぱり『恋』なんて名前、あたしには合わないよなぁ…なんて、
どうしようもないことを思った。
「案外、れんのこと好きな人は近くにいるかもしんないよ?」
「あたしを、好きな人…?」
少しだけ考えて、すぐに否定の言葉を口にする。
「いるわけないよ!」
自分が告白する場面ですら想像つかないのに、
告白される場面だなんて、論外。
そんな人、現れるはずがない。
「…まぁ、今は そういうことにしとこうか。」
しょうがないな、みたいな笑顔を向けてくる渉に、
『今』だけじゃなくて『これから先もずっと』だと言おうとしたけど、
「うん、そだね。」
自分でも悲しくなったから、やめた。