佐藤 VS 佐藤


ギィィ…



重いドアをゆっくりと押すと、雲ひとつない青空が広がっていた。
季節は7月。あと2週間で、夏休み。


…そういえば、転校が決まったのもちょうどこの時期だったっけ。


夏休み明けから、別の学校に行くんだとお父さんは言った。
転校先は県内だったけれど、近くはなくて。
もう一生、会うことはないと思ったんだ。


『行成なんか大キライ!!』


1学期最後の終業式の日、あたしはそう叫んだ。
直前に、何があったのかは覚えてない。

…でも、アイツの驚いた顔は、覚えてる。

あの茶色い目を大きく見開いて、そのあと。
一瞬だけ、悲しそうな顔をしたんだ。






――屋上のフェンスに寄りかかって、閉じ込めていた記憶を呼び覚ます。







気がついたら隣にいて。
いつもいつも意地悪で。

また何かされたら、と思うと、文句も言えなかった。…あの日までは。

きっと アイツは、ただの悪戯のつもりだったんだと思う。
その証拠に、あたしが泣くと少し困った顔をしていた気がする。

…そうだ。
その顔が、なにより苦手だった。

『意地悪するから』ってのも、もちろんあったけど。

そのくせ、あたしが泣くと困った顔をして、ぎこちない手で頭を撫でるんだ。
悪かった…、って小さく呟いて。

なんだか自分が情けなく思えて、嫌だった。
それが1番『苦手』だった。

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