佐藤 VS 佐藤
今まで決して思い出すことのなかったことまで思い出して、ため息をついた。
フェンスに預けていた背中を起こし、体を反転させる。
そのまま指を絡ませて、しがみつくようにフェンスを握れば、中庭が目に入った。
「…あ。」
そこにいたのは、アイツと、女の子。
遠目に見ても、甘い雰囲気とは言えないのがはっきりと分かる。
泣きながら何かを訴える女の子と、だるそうに聞きながら時折何かを告げるアイツ。
『朝からうざい女に泣き喚かれたんだよ。』
…確か、そんなことを渉に言っていたと思う。
ということは、あの子が その女の子なのかもしれない。
「…やっぱりキライ。」
誰にも届かない小さな呟きは、風の音に掻き消された。
苦手だったアイツ。それでも、キライじゃなかった。
あの日は、「大キライ」なんて言ったけど。
本当に『大キライ』になったのは、高校で再会してから。
人の恋する気持ちを踏みにじるようなアイツを見たとき、あたしはアイツを『大キライ』になった。