出逢うべくして。You’re the one for me...


「え、うそ冗談だよね??IBUKIだよ?加野伊吹ってあのアイド...「っっ待って咲さんっ!!!」



状況を理解したかのように切羽詰まった表情で咲と私の間に割って入る伊吹くん。



2人の言っている意味がいまいちよくわからない。
と、思っていると同時に目に飛び込んできた映像が。



へ??なんで??



私たちの目の前には天井から吊り下げられたTV画面。そこに映るのは紛れもなくその人。


(本日はBLACKTUFT リーダーのIBUKIさんにお越しいただいています!先日発表された新曲 FOCUS のMVが公開されましたが、どんなところに注目してもらいたいですか?)



(そうですね〜、今回は僕が振り付けを担当させて頂いたんですけれども...)



そっか。そういうことか。
アイドル、、、、そっか。



ただの一般人が簡単に近寄って良い存在じゃないんだ。



「...凛花さん?あの、俺隠すつもりはなくて...」



「分かってます!すみません、気付かなくて、私失礼なこといっちゃってないかな??笑気付いてない時点でだいぶ失礼か!笑 本当すみません!」



だめだ、顔が引き攣る。
なんで?涙が。だめ。溢れる。



私は後ろを向いて走り出していた。



「待って!!凛花さん!!」


遠くで伊吹くんの声が聞こえたような気がしたけれど。ついてこないでほしかったから。ジムのあるフロアをでた後、途中振り返ったけれど伊吹くんの姿はなかった。




そのまま会社を出て気がつけば自分の家の前までたどりついていた。



鍵を開けて部屋に入る。


玄関に入った途端再び溢れ出した涙。



芸能人と一般人なんて住む世界が違う。
アイドルならきっとファンがいて、私なんかよりずっと前から伊吹くんを思ってきた人もたくさんいるはず。



そんなみんなの幸せを私なんかが奪っていいはずない。


そしてなにより、私には芸能人と付き合うという覚悟がどうしても持てなかった。



短い期間だったけれど電話をしたり、会社であったり、楽しかった思い出が頭の中をぐるぐる駆け巡って。


ただ普通の恋がしたかっただけなのに。


私、本当に伊吹くんのことが好きだったんだな。
こんなにも泣き続けた夜は初めてだった。
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