私を愛するその人は、私の向こうに別の女(ひと)を見る
 けれど、私は欲張りだ。

「やめる?」

 彼のその優しさを振りほどき、首を横に振った。

 もし、彼の世界を見られるなら。
 もし、私をキラキラ世界に連れて行ってくれるなら。

 私みたいな底辺な人間だって、“王子”の世界を見てみたい。

 自分勝手な思いだけれど、ちょっとした好奇心だった。

「シて……ほしい、です」

 じっと瑞斗さんの瞳を見てそう伝えると、彼の瞳は王子の爽やかな笑みから徐々に野獣の色を帯びていく。

「無理、してない?」

 コクリと頷くと、彼はそのまま私の唇を奪う。
 先程のような、触れるだけのキスじゃない。
 それは、甘くて、蕩けるような、優しく深いキス。
 私の口の中を、全部知りたいというように這う舌が、私の身体を火照らせた。

 彼の手はバスローブの合わせの辺りを行ったり来たりする。
 その扇情的な動きに、身体の芯から熱くなっていく。

 思わず彼の背中に手を伸ばし、彼の口内を貪った。

 ねえ、教えて。
 私にも、あなたの世界を。

 そんな思いで、彼と舌を絡め合わせた。
 すると今度は、彼の手が早急にバスローブを剥いでいく。
 そしてそのまま、彼のキスは首へ、肩へ、鎖骨へと下りていく。

「いや……はぁ……ん」

 自分じゃないような自分の声がして、思わず下唇を噛んだ。
 それに気付いた瑞斗さんがもう一度唇に優しくキスを落とす。

「可愛い声、全部聞かせて?」

 耳元で囁かれ、そのままカプリと甘噛されれば、身体がピクリと跳ねた。

 どうしよう、私、ものすごく――

 彼の唇は再び私の全身を這い、そこにバラ色の痕を落としていく。

 ――彼を、欲してる。

「ヤバ、我慢出来ないかも」

 彼がそう呟いたから、私は彼の背に伸ばした手に力を入れた。
 いつでもいいよ、と、伝えたくて。

「ありがとう」

 瑞斗さんはそう言うと、私の中にゆっくりその熱を差し込む。

「んん……」

 初めての快楽に、夢中になった。
 優しい言葉を囁かれれば、彼がもっと欲しくなる。
 何度も押し込まれる彼の熱に、私も腰を動かした。
 突き上げる快楽は、やがて私を絶頂に導く。

 何度もやってきた波に身を任せ、彼の愛を貪る。

 分かってる。
 これは、私に向けられた愛じゃない。
 けれど、今だけは、私が受け取ってもいいよね?

 私はそのまま、彼の腕の中で、温かな眠りに落ちていた。
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