私を愛するその人は、私の向こうに別の女(ひと)を見る
その後、トイレ清掃をしていると、休憩時間なのか女子社員が二人やってくる。
彼女たちは鏡の前でポーチからファンデーションやチークブラシを取り出し、化粧直しを始めた。
「王子、さっき掃除の子と話してたって」
「へえ、王子もすぎるよね……誰にでも王子なんだもん」
「本当……王子すぎる」
ははっと笑いながら会話する彼女たちを、思わず振り返った。
彼女たちは私に気付かずに、最後の仕上げにリップを直すと、そのままお手洗いから出て行ってしまった。
王子は、誰にでも王子。
私にも、王子だった。
けれど、私は彼女たちとは違う。
彼女たちはキラキラしている。
それなのに、私は……。
独りきりになったトイレの中で、鏡に映る自分を見た。
22歳の私は、彼女たちより年下だろう。
それなのに、キラキラしたオフィスカジュアルなど似合うはずがない。
私には、この清掃服にエプロンに、三角巾にゴム手袋の方が似合うのだ。
メイクは汗で落ちてしまった。
けれど、それでいい。
きっと、王子も彼女たちも、キラキラした世界の側の人間だ。
さっきは少し間違って、交わってしまっただけ。
先程の、王子の微笑みを思い出す。
胸がドキリと高鳴るけれど、同時にため息が漏れた。
私は、彼らと同じ世界には、住んじゃいけない。
住めるわけがない。
私は、役立たずの、汚い女だから。
社会の底辺で生きる、彼らとは別世界の人間だから。
彼女たちは鏡の前でポーチからファンデーションやチークブラシを取り出し、化粧直しを始めた。
「王子、さっき掃除の子と話してたって」
「へえ、王子もすぎるよね……誰にでも王子なんだもん」
「本当……王子すぎる」
ははっと笑いながら会話する彼女たちを、思わず振り返った。
彼女たちは私に気付かずに、最後の仕上げにリップを直すと、そのままお手洗いから出て行ってしまった。
王子は、誰にでも王子。
私にも、王子だった。
けれど、私は彼女たちとは違う。
彼女たちはキラキラしている。
それなのに、私は……。
独りきりになったトイレの中で、鏡に映る自分を見た。
22歳の私は、彼女たちより年下だろう。
それなのに、キラキラしたオフィスカジュアルなど似合うはずがない。
私には、この清掃服にエプロンに、三角巾にゴム手袋の方が似合うのだ。
メイクは汗で落ちてしまった。
けれど、それでいい。
きっと、王子も彼女たちも、キラキラした世界の側の人間だ。
さっきは少し間違って、交わってしまっただけ。
先程の、王子の微笑みを思い出す。
胸がドキリと高鳴るけれど、同時にため息が漏れた。
私は、彼らと同じ世界には、住んじゃいけない。
住めるわけがない。
私は、役立たずの、汚い女だから。
社会の底辺で生きる、彼らとは別世界の人間だから。