私を愛するその人は、私の向こうに別の女(ひと)を見る

5 私の向こうにいる女

 ***

 それから1週間が過ぎた。
 平日は一緒に出勤して、帰りも一緒に帰った。
 社内では、私たちの関係は秘密だった。
 皆にバレないようにと、こっそり地下で別れるけれど、清掃中に彼のフロアに行けばつい彼を目で追ってしまう。
 目配せをすれば王子の微笑みが返ってきて、それだけで私の胸は踊った。

 一緒にスーパーへ立ち寄って、買い物をした。それから一緒にキッチンに並んで、夕食を作った。一緒に食べて、一緒に寝た。

 昼も夜も変わらず笑顔で、いつも私を愛で包み込んでくれた。

 毎日が、楽しかった。
 毎日が、幸せだった。

 だからこそ、いつも虚しくなった。
 いつも、悲しくなった。

 仕事中に目が合っても、手を繋いで帰っても、キッチンに並んでも、ベッドの上で抱かれても、彼の目に映っているのが私じゃなかったから。

 愛されているのは、私じゃない。
 あの紙を書いた“アリサ”さんだ。

 けれど、私はどんどん欲張りになった。
 一緒にいれば居るほど、心が瑞斗さんを欲した。

 この愛は、私が受け取りたい。
 たとえ、彼が私の向こうに“アリサ”さんを見ていたとしても。

 私は自分が底辺の人間だということを忘れて、キラキラな世界を、瑞斗さんとの時間を楽しんでしまった。
 そんな身の程知らずな気持ちは、神様が見ていたらしい。

 バチが当たったんだ。
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