私を愛するその人は、私の向こうに別の女(ひと)を見る
 翌朝、腹痛に襲われて目が覚めた。開いた目の先に、瑞斗さんはいない。

 そうだ、昨日、泣いちゃって、ひとりにしてって、寝室にこもって……そのまま、寝ちゃったんだ、私。

 ここは、彼の部屋なのに。
 
 ベッドの上からぐるりと辺りを見回すけれど、瑞斗さんはいない。
 一人だ。

 寂しいという気持ちが襲ったあとに、安堵がやってきた。
 またお腹が痛くなって、顔を歪めてしまったから。

 瑞斗さんがこれを見たら、心配してあれやこれやと手を焼くに決まっている。

 はあ、とため息を零すも、次の瞬間、私は慌てて飛び起きた。
 ドロリと垂れる、あの感触がしたからだ。

 ベッドから飛び降りた私の目に映ったのは、シーツの上の真っ赤な鮮血。

 嘘でしょ……どうしょう。

 汚してしまった。
 汚い。穢れてる。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。

 月経は、私の一番の穢れだ。

 ***

 初潮は10歳の時だった。
 父は血に汚れる私を、汚いと言った。

「だから女は嫌なんだ。汚いし、面倒くさい。おまけに心も汚い。最低な生き物だな」

 父は月経が終わるまで、私を家に閉じ込めた。
 対処の仕方を知らなくて、私はそのまま家のトイレでやり過ごした。

 汚れたものは、全部自分で洗った。
 そんな私を見て、父は「汚い」と言った。

 ナプキンという存在を知ってからは、月経が始まるとショーツにトイレットペーパーを詰めて学校に行った。
 学校医の先生は、毎回「ちゃんと持ち歩いてね」と呆れながら、私にナプキンをくれた。

 嫌いだった。
 こんなものさえなければ、父はもう少し私に歩み寄ってくれたかもしれないのに。

 女でなければ、父は私を咎めたりしなかったのかもしれないのに。

 ***

 そんな大嫌いな汚いもので、彼のシーツを汚してしまった。
 その罪悪感に、私の心臓がドクドクと嫌な音を立て始める。

 嫌われてしまう。
 彼にも、汚いと言われてしまう。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。

 そう思う間にも、ぽたりとフローリングの床に垂れる鮮血。
 はっとして、急いでパジャマのズボンを取り去った。それを股に挟んで、そのままクローゼットを漁る。
 ここに、私の下着も入っている。
 私は生理用のショーツを探し当てると、そのままトイレに駆け込んだ。
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