私を愛するその人は、私の向こうに別の女(ひと)を見る

7 彼の想いを受け止めて

「汚くなんてない! そんな風に言うな!」

 初めて聞いた、彼の怒号。
 それなのに、それは私の胸をきゅっと締め付ける。
 見上げると、彼は私をじっと見ていた。
 優しい、王子のような目で。

「汚いわけないでしょ。新しい命を育むための、大切なものなんだから」

 瑞斗さんは私の頬を撫でた。
 それで、気付いた。
 溢れ出した、涙の存在に。

「瑞斗さん……あたし……」

 嗚咽でうまく喋れなかった。
 それがもどかしくて、下唇を噛んだ。
 そんな私をじっと見つめたまま、瑞斗さんは目を細める。

「僕は男だから、紗佳がどのくらい辛いのかは分からないし、代わってもあげられない。だから、このくらいやらせてよ」

 その言葉に、つい思いが溢れ出す。
 好きだ。
 この人が、どうしようもなく。

 鼻の奥がツンとして、またじわんと涙が溢れ出した。

「あの、さ」

 瑞斗さんは私を見つめたまま続けた。

「僕、まだ紗佳に言ってないことがあるんだけど、……聞いてくれる?」

 アリサさんのことだ、と、反射的に悟った。
 それで、身体が強張った。

 けれど、私を見るその瞳はとても優しい。
 私は覚悟を決めて、コクンとうなずいた。

「ん。じゃあ、その前に、これ片付けないと」

 そう言って、彼はまたたらいの前にしゃがむ。
 それで、私の身体の力が抜けた。

 それからふう、と、息をつくと、私もその隣にしゃがんで、パジャマに付いた血液を擦り落とした。
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