私を愛するその人は、私の向こうに別の女(ひと)を見る
1 お礼
「お疲れ、紗佳ちゃん」
商社の地下1階、物置のような場所に私たちのオフィスがある。もっとも、オフィスと言ってもロッカーと更衣室があるだけだが。
清掃会社から派遣されてこの企業にお邪魔しているので、別に文句はない。
ここは上の階のキラキラした雰囲気とは違いアットホームな感じだ。
むしろ、私には居心地がいい。
「あ、なかむーさんお疲れさまです!」
なかむーさんは私の先輩で、大ベテランの48歳。私と同じ22歳のお子さんがいらっしゃるらしく、何かと気にかけてくれる温かいお母さんみたいな人だ。
「午後9時退勤、ねぇ。深夜代出るからとはいえ、女の子にこんな時間まで働かせるなんて」
「いえ、私は……」
着替えながら、愚痴を零すなかむーさんに、苦笑いをした。
「オバサンはもう眠いわよ〜。大体、この会社の人たち、何で定時で帰らないの? ……何とかならないのかしら」
ハハっと豪快に笑うなかむーさんを見ていると、何だか今日の疲れもどっと飛んでいくようだ。
今日の愚痴をこぼし合いながら、着替えを済ませてオフィスの外へ。
「あ……」
先にドアを開いたなかむーさんが立ち止まって、思わずその背中にぶつかってしまった。
「あずきざわ、さん……いますか?」
この声。間違いない。
「王子!」
と叫んだのはなかむーさんだった。
「あ、ごめんなさいね。びっくりしちゃって」
なかむーさんはそのまま外へ出る。
するとそのまま、「ご、ごゆっくり〜」なんて挙動不審なまま去って行ってしまった。
「ちょ、なかむーさん……」
取り残された私。眼の前には、王子。
「良かった、あずきざわさんだ」
ニコっと爽やかスマイルを私に向ける彼。薄暗い地下の通路で、それはいっそう輝いて見える。
「えっと……小豆沢、です」
その笑顔が眩しくてうつむき答えると、「わわわ、ごめん!」と頭の上から聞こえた。
「名札、漢字だけだったから……本当ごめん、人の名前間違えるなんて! 改めて、えっと……小豆沢さん、」
彼は顔を上げた私に、ニコっともう一度爽やかスマイルを向ける。それで、私はまた俯いてしまった。
商社の地下1階、物置のような場所に私たちのオフィスがある。もっとも、オフィスと言ってもロッカーと更衣室があるだけだが。
清掃会社から派遣されてこの企業にお邪魔しているので、別に文句はない。
ここは上の階のキラキラした雰囲気とは違いアットホームな感じだ。
むしろ、私には居心地がいい。
「あ、なかむーさんお疲れさまです!」
なかむーさんは私の先輩で、大ベテランの48歳。私と同じ22歳のお子さんがいらっしゃるらしく、何かと気にかけてくれる温かいお母さんみたいな人だ。
「午後9時退勤、ねぇ。深夜代出るからとはいえ、女の子にこんな時間まで働かせるなんて」
「いえ、私は……」
着替えながら、愚痴を零すなかむーさんに、苦笑いをした。
「オバサンはもう眠いわよ〜。大体、この会社の人たち、何で定時で帰らないの? ……何とかならないのかしら」
ハハっと豪快に笑うなかむーさんを見ていると、何だか今日の疲れもどっと飛んでいくようだ。
今日の愚痴をこぼし合いながら、着替えを済ませてオフィスの外へ。
「あ……」
先にドアを開いたなかむーさんが立ち止まって、思わずその背中にぶつかってしまった。
「あずきざわ、さん……いますか?」
この声。間違いない。
「王子!」
と叫んだのはなかむーさんだった。
「あ、ごめんなさいね。びっくりしちゃって」
なかむーさんはそのまま外へ出る。
するとそのまま、「ご、ごゆっくり〜」なんて挙動不審なまま去って行ってしまった。
「ちょ、なかむーさん……」
取り残された私。眼の前には、王子。
「良かった、あずきざわさんだ」
ニコっと爽やかスマイルを私に向ける彼。薄暗い地下の通路で、それはいっそう輝いて見える。
「えっと……小豆沢、です」
その笑顔が眩しくてうつむき答えると、「わわわ、ごめん!」と頭の上から聞こえた。
「名札、漢字だけだったから……本当ごめん、人の名前間違えるなんて! 改めて、えっと……小豆沢さん、」
彼は顔を上げた私に、ニコっともう一度爽やかスマイルを向ける。それで、私はまた俯いてしまった。