私を愛するその人は、私の向こうに別の女(ひと)を見る
***
「親、いないんだよね……僕」
簡単に作った朝食を食べ終えると、瑞斗さんはそっと話し始めた。
はっと息を飲むと、彼は自嘲するようにふっと笑った。気にしないで、と言うように。
「15歳の時に、事故で」
「そうだったんですね……」
「それで、叔父に引き取られたんだけど。妹が、いたんだ。アリサっていう」
「え……?」
思わず彼をじっと見た。
「どうした?」
「あ、いや、前に寝言でその名前言ってたので……」
「そっか。サイテーだね。妹だろうと、彼女の前で他の女の名前を呼ぶなんて」
瑞斗さんが悲しそうな顔でため息を漏らしたから、私はあわてて「全然大丈夫です」と返した。
「叔父は未婚だったんだけど、僕たちはとても良くしてもらった。おかげで、僕は大学院を出ることもできたし、今は商社で働けてる」
そうか、だから瑞斗さんはあんなに本を……。
納得した。
きっと、彼がエースの商社マンでいるのは、叔父さんへの恩返しなんだ。
けれど、気になったのはそっちじゃない。
「あの、アリサさんって……」
「アリサも、死んだ」
「やっぱり、そうだったんですね……」
瑞斗さんがしゅんと肩を下げたから、私は慌てて謝った。「いいって」と言いながら、彼はその続きを教えてくれた。
妹のアリサさんは、ご両親が亡くなったとき、10歳だった。彼女は転校した際に、親がいないことも合わさって、いじめの標的にされたらしい。
やがて11歳で初潮がきたアリサさん。けれど、恥ずかしくて叔父に言えなかったらしい。瑞斗さんがシーツの汚れに気付いて発覚したのだった。
「それでも、アリサは叔父に言えなかった。僕は、そのことに気付けなかった。もう11歳だし、自分で言うだろうって思ってた」
瑞斗さんは後悔からか、しゅんと肩を落として話し続けてくれた。
「親、いないんだよね……僕」
簡単に作った朝食を食べ終えると、瑞斗さんはそっと話し始めた。
はっと息を飲むと、彼は自嘲するようにふっと笑った。気にしないで、と言うように。
「15歳の時に、事故で」
「そうだったんですね……」
「それで、叔父に引き取られたんだけど。妹が、いたんだ。アリサっていう」
「え……?」
思わず彼をじっと見た。
「どうした?」
「あ、いや、前に寝言でその名前言ってたので……」
「そっか。サイテーだね。妹だろうと、彼女の前で他の女の名前を呼ぶなんて」
瑞斗さんが悲しそうな顔でため息を漏らしたから、私はあわてて「全然大丈夫です」と返した。
「叔父は未婚だったんだけど、僕たちはとても良くしてもらった。おかげで、僕は大学院を出ることもできたし、今は商社で働けてる」
そうか、だから瑞斗さんはあんなに本を……。
納得した。
きっと、彼がエースの商社マンでいるのは、叔父さんへの恩返しなんだ。
けれど、気になったのはそっちじゃない。
「あの、アリサさんって……」
「アリサも、死んだ」
「やっぱり、そうだったんですね……」
瑞斗さんがしゅんと肩を下げたから、私は慌てて謝った。「いいって」と言いながら、彼はその続きを教えてくれた。
妹のアリサさんは、ご両親が亡くなったとき、10歳だった。彼女は転校した際に、親がいないことも合わさって、いじめの標的にされたらしい。
やがて11歳で初潮がきたアリサさん。けれど、恥ずかしくて叔父に言えなかったらしい。瑞斗さんがシーツの汚れに気付いて発覚したのだった。
「それでも、アリサは叔父に言えなかった。僕は、そのことに気付けなかった。もう11歳だし、自分で言うだろうって思ってた」
瑞斗さんは後悔からか、しゅんと肩を落として話し続けてくれた。