私を愛するその人は、私の向こうに別の女(ひと)を見る
それから、適当に頼んだおつまみをつつきながら、お酒を嗜んだ。
あまり飲み慣れない私はオレンジジュースに切り替えたけれど、彼はやはり商社マンだ。何杯目になるか分からないビールを飲み干しても、顔色ひとつ変えなかった。
やがて私も彼もお腹が膨れてきた頃、ふう、と一息つくと、急に彼が口を開いた。
「そういえば、聞かないんだね、あのこと」
「あのこと……?」
私が首をかしげると、彼は両手の親指と人差し指で小さく四角を作った。
ああ、あの紙のことか。
「誰にだって、言いたくないことのひとつやふたつあります」
毅然として、そう答えた。
あの紙を大切なものだと、彼は言っていた。
けれども別に、彼が誰を好きだって構わない。
だって、彼はキラキラした世界の住人で、私とは住んでいる世界が違うんだから。
「ってことは、中、見たよね?」
「え!?」
しまった、カマかけられた!
彼が聞きたかったのは、あの紙の中身についてのことじゃない。
あの紙の中身を見たかどうか、だったんだ!
「でも、そっかぁ、言いたくないことのひとつやふたつ、ねぇ……」
彼はもごもごと言いながら、まだ残っていた枝豆に手を伸ばした。そしてそれを口に放ると、そのままふっとこちらを見つめる。
爽やかな、王子の笑みで。
「キミは優しいんだね」
「優しくないです、別に……普通、です」
俯いた。
恥ずかしくなったのもあるが、申し訳なかったからだ。
普通……いや、普通以下の私に、王子が『優しい』と声をかけるなんて。
それなのに。
「でも、キミに言いたくなったから、言ってもいい?」
彼は探るように、下から私の顔を覗き込んできた。
「どうぞ」
私は動揺を悟られないように、冷静な声になるよう努めて、そう言った。
すると彼はまたニコっと爽やかスマイルを一度私に向けてから、カウンターの向こうに視線を向けた。
「これ、遺書みたいなものなんだ。持ち歩いてるのは、戒めのため」
その瞳は、カウンターの向こうよりももっと遠いどこか見ていた。
そこに映っているのは、一体誰なのだろう。
優しくて、慈悲にあふれた瞳。
けれど、悲しくて、泣き出しそうな瞳。
その瞳に引き込まれそうになっていると、突然彼の顔が私に近づいた。
「ねえ、信じられないかも知れないけど……思ったこと、言ってもいい?」
「何ですか……?」
「僕、キミのこと……好き、かも」
あまり飲み慣れない私はオレンジジュースに切り替えたけれど、彼はやはり商社マンだ。何杯目になるか分からないビールを飲み干しても、顔色ひとつ変えなかった。
やがて私も彼もお腹が膨れてきた頃、ふう、と一息つくと、急に彼が口を開いた。
「そういえば、聞かないんだね、あのこと」
「あのこと……?」
私が首をかしげると、彼は両手の親指と人差し指で小さく四角を作った。
ああ、あの紙のことか。
「誰にだって、言いたくないことのひとつやふたつあります」
毅然として、そう答えた。
あの紙を大切なものだと、彼は言っていた。
けれども別に、彼が誰を好きだって構わない。
だって、彼はキラキラした世界の住人で、私とは住んでいる世界が違うんだから。
「ってことは、中、見たよね?」
「え!?」
しまった、カマかけられた!
彼が聞きたかったのは、あの紙の中身についてのことじゃない。
あの紙の中身を見たかどうか、だったんだ!
「でも、そっかぁ、言いたくないことのひとつやふたつ、ねぇ……」
彼はもごもごと言いながら、まだ残っていた枝豆に手を伸ばした。そしてそれを口に放ると、そのままふっとこちらを見つめる。
爽やかな、王子の笑みで。
「キミは優しいんだね」
「優しくないです、別に……普通、です」
俯いた。
恥ずかしくなったのもあるが、申し訳なかったからだ。
普通……いや、普通以下の私に、王子が『優しい』と声をかけるなんて。
それなのに。
「でも、キミに言いたくなったから、言ってもいい?」
彼は探るように、下から私の顔を覗き込んできた。
「どうぞ」
私は動揺を悟られないように、冷静な声になるよう努めて、そう言った。
すると彼はまたニコっと爽やかスマイルを一度私に向けてから、カウンターの向こうに視線を向けた。
「これ、遺書みたいなものなんだ。持ち歩いてるのは、戒めのため」
その瞳は、カウンターの向こうよりももっと遠いどこか見ていた。
そこに映っているのは、一体誰なのだろう。
優しくて、慈悲にあふれた瞳。
けれど、悲しくて、泣き出しそうな瞳。
その瞳に引き込まれそうになっていると、突然彼の顔が私に近づいた。
「ねえ、信じられないかも知れないけど……思ったこと、言ってもいい?」
「何ですか……?」
「僕、キミのこと……好き、かも」