ハズレの姫は、獣人王子様から愛されたい〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜
そしてまたクジ引きは始まった。
リラ(エリザベート)が部屋で食事をしている頃。
城のダイニングでは王様、王妃様、八人の王子達が食事をしていた。
マフガルド王国、国王ゼビオスはワイングラスを片手に、シリルに目を向ける。
静かに食事をとるシリルの顔は、珍しくにやけたり、眉間にシワを寄せたりと忙しい。
「どうだシリル、姫とは仲良くやれそうか?」
「……」
「シリル」
ゼビオス王が声を掛けると、シリルはハッと顔を上げた。どうやら心ここにあらずだったらしい。
「はい」
たった一言答え、シリルはフォークの先へと目を落とした。
先程側近から、シリルが姫と出掛けたと聞いていたゼビオス王は、その事を詳しく聞きたかったのだが、息子達の中でも一番の堅物であるシリルは話してくれそうもない。
どうやって聞き出そうか、と考えていると第四王子ノルディが、食事の手を止めて話してきた。
「父上、その事についてお話があります」
「なんだ、ノルディ」
「もう一度クジ引きをやり直して下さい」
碧瞳を真っ直ぐにゼビオス王に向け話すノルディ。それに続くように第八王子ハリアが言う。
「僕からもお願いします。あんなに人の姫が可愛いなんて思わなかった」
すると、第五王子デュオが「クジ引きじゃなくて直接選んで貰えば?」と話す。
第一王子カイザーは、そんな発言をする弟達に驚いていた。
「そんなに可愛いのか?」
「……俺はどちらでもいい」
第二王子マルスは特に興味もないようだ。
「………………」
第六王子ルシファは黙々と食事を続けている。
すると突然、皆が集まるダイニングの扉がガチャリと開き、金髪の美男子が現れた。
「ずるいよー、僕も入れて!」
ひたすらフォークの先端を見つめ、先程まで一緒にいたエリザベートの事を思っていたシリルは、この場で聞こえるはずのないその声に、驚き椅子から立ち上がる。
「メイナード! お前いつの間に入って来たんだ⁈ 」
メイナードは大声を出すシリルの事をチラリと横目で見たが、特に気にもせず王と王妃に向けて、華麗にお辞儀をする。それから空いていた席に、当たり前のように腰掛けた。
それまで王子達の会話を静観していた王妃様は、食事の手を止めナプキンで口を拭うとおもむろに口を開いた。
「あなた達、あんなに人の姫は嫌だと言っていたじゃない」
面白くなさそうに、王妃は美しい白銀の尻尾を大きく一振りする。
ゼビオス王は、感情を露わにする王妃を笑みを浮かべながら見ていた。
「それは、リフテス人の男しか知らなかったからだよ。まさか女性があんなに小さく可愛いなんて思わなかったから」
デュオが黄金の目を細めながら王妃に話すと、同じようにハリアもその紺碧の瞳を輝かせた。
「エリザベート様、凄くかわいいんだ……」
まだエリザベートを見たことのない第七王子ヨシュアが「そんなに可愛いの?」と羨ましげに、さっきから立っているシリルに聞いてくる。
「ダメだ、エリザベートは俺の……妻になるんだ」
そう言って椅子に腰掛けたシリルは、さっきまで腕の中に抱えていたエリザベートを思い出し、顔を赤らめた。
そんなシリルの様子を、ゼビオス王は愉しげに見ている。
「そうよ、クジ引きはやり直さないわ。アレには私が魔法を掛けていたんだから! 印の付いた棒を引いた者が、人の姫とどんな形であれ、運命を持っているの」王妃が言うと、「その時僕は居なかったんだから、そのクジ引きは無効です。やり直して下さい! それでもシリルが印を引いたら皆、諦めます」と、メイナードが当然の如く言った。
「……そう?」
王妃は眉を顰める。
「ラビッツ家は元王族です。参加する権利なら僕にもある! 公爵だし! 身分的にも問題はありません」
麗しい顔で赤い目を煌めかせ、メイナードは言い切った。
王妃は、ほんの少し考えた後「そうね」と呟く。
「良いんですね、王妃様!」
メイナードの言葉に王妃が頷けば「えっ!」とシリルが目を見開いた。
「なんでメイナードが勝手に決めるんだよ!」
「そうだな、それでいい」
「じゃあ、最初に二回引いた人にしない?」
王子達はそれぞれに話を始める。
「いや、待ってくれ」
どんどん勝手に進む話を、シリルは止めようとした。まだエリザベートと出会ってたった一日しか過ごしていないが、今さら彼女と離れることは考えられなかったのだ。
だが「分かりました、皆の意見を尊重してもう一度クジ引きを行う。いいですね父上、母上」
黄金の尻尾をファサリと揺らし、長兄カイザーがゼビオス王に言った。
「いいだろう」
ゼビオス王が言うと、王妃もコクリと頷く。
「なっ! どうしてっ!」
「なんだシリル、まだたった一日、彼女もお前じゃなくても構わないはずだ」
「ぐっ……」
その意見には何も言えない。
シリルは仕方なくクジ引きに参加する事になった。
メイナードの参加によって、一本増やされた棒のクジを引く。
クジを選ぶ順番は長兄カイザーによって決められた。
年齢の順番で、と言ったカイザーだったが、シリルは一番最後に回された。
「なぜ、俺が最後なんだ」
「お前は一度当たりを引いているから、最後に決まっている」
「当たり……?」
あの時はハズレだと言ったくせに……。
しかし、シリルはそれ以上何も言わずクジを引いた。
「……何で? 何でまたシリル兄上が当たるんだよっ!」
最後に引いたシリルの棒に印があった。
納得いかないと言う兄弟達とメイナードの為、もう一度クジ引きをしたのだが、またもシリルの引いた棒の先に印が付いていた。
その後、メイナードの幼い兄弟達も押しかけて来た為に、仕方なく更に増やしたクジを引いたが、それでも印はシリルの引いた棒にあった。
「これで皆、納得したでしょう? シリルが姫の相手です。これは決定、そして彼女から結婚相手を選ぶことは許しません。いいですね」
王妃の深い青い目が皆を見据える。
そこにいた全員が、王妃に向け「分かりました」と礼をした。
◇
その後、シリルは部屋へと戻った。
よかった……。
その上、彼女からは選ぶ事は出来ないと母上に言われて、俺は安堵した。
兄弟達の中から選ばれるのであったなら、たぶん俺は選んで貰えないだろう。
兄弟達のなかでも一番黒い毛を持ち、体も大きい。良くも悪くも、父上に似た鋭い黄金の目は、会うものを震え上がらせる。
初めて会った時、彼女も震えていた。(怖がらせたから仕方ないが)
この見た目だ、きっと恐ろしかっただろう。
それなのに……今朝は、俺を美形だと褒めてくれた。
あんな事を言ってくれたのは彼女が初めてだ。
それに、横に座っても、馬に乗る為に抱きしめた時も、震えずにいてくれた。
……俺は……。
◇
今、私は寝室にいる。
寝るには少し邪魔なほど、フリルのたくさん着いた白い寝間着を着て、呆然と立っている私の前には、テキパキとベッドのシーツを取り替えるモリーさんの姿がある。
「ここで、シリル様と一緒に寝るんですか?」
「そうです。お二人は結婚されるのですから、何も問題ありません。それに、ベッドはここに一つしかございません。昨夜はシリル様はご自身の部屋にあるソファーでお休みになられた様ですが、それでは体が休まらなかったでしょう。
エリザベート様、一日も早くお二人が仲良くなる為にも是非ご一緒にお休み下さい」
モリーさんはベッドのシーツを取り替え終えると「それでは、エリザベート様お休みなさい」と言って部屋を出て行った。
寝室にポツンと取り残された私はベッドを見つめ呆然とする。
……シリル様と一緒に寝る。一緒に寝るの⁈
他人と寝るなんてした事ない。
母さんと寝たのだって、ずいぶん幼い頃だ。
だけど、結婚するんだから……。
それに私は子供を産まないと……。
「うわぁ……どうしよう……」
今まで、何となく子供を生んで帰ってメリーナを助けなければと思っていたけど……私、子供ができる様な事はした事ありません!
キスもまだないよっ⁈
キス……シリル様と……?
ふとシリル様の唇を思い出してしまった。
私よりも大きな口、薄い唇、少しだけ開かれると見える白い牙。
牙……キスの時怪我はしないのかしら?
でも、彼は怪我をしていないのだから、しないよね?
どうなのかしら?
……はっ!
カチャリ、と寝室の扉が開き、シリル様が黒い寝間着姿で入ってきた。
ベッドの前で直立不動している私を見て、彼もまた固まった。
「………………」
「………………」
(な、何かを話さないと! 何を⁈)
きまづい……。
キスの事を考えていたせいか、ついシリル様の唇に目が向いてしまう。
すると、シリル様が先に口を開いた。
「エリザベートはそちら側で、俺は君に背を向けて寝る様にするから、気にせず寝てくれないか……このままこうしていては体が冷えるだろう?」
「はい……」
シリル様の声は平静としていた。
いろいろ考えて意識していたのは、私だけだったみたいだ。
それに、よく考えたらシリル様はラビー様を好きなのだ。私は決められた結婚相手でしかない。
何も思わないのは当然だ。
すごく優しくされるから……。
好かれているのだと、勘違いする所だった。
私達は互いに背を向けて、ベッドへと横になった。
城のダイニングでは王様、王妃様、八人の王子達が食事をしていた。
マフガルド王国、国王ゼビオスはワイングラスを片手に、シリルに目を向ける。
静かに食事をとるシリルの顔は、珍しくにやけたり、眉間にシワを寄せたりと忙しい。
「どうだシリル、姫とは仲良くやれそうか?」
「……」
「シリル」
ゼビオス王が声を掛けると、シリルはハッと顔を上げた。どうやら心ここにあらずだったらしい。
「はい」
たった一言答え、シリルはフォークの先へと目を落とした。
先程側近から、シリルが姫と出掛けたと聞いていたゼビオス王は、その事を詳しく聞きたかったのだが、息子達の中でも一番の堅物であるシリルは話してくれそうもない。
どうやって聞き出そうか、と考えていると第四王子ノルディが、食事の手を止めて話してきた。
「父上、その事についてお話があります」
「なんだ、ノルディ」
「もう一度クジ引きをやり直して下さい」
碧瞳を真っ直ぐにゼビオス王に向け話すノルディ。それに続くように第八王子ハリアが言う。
「僕からもお願いします。あんなに人の姫が可愛いなんて思わなかった」
すると、第五王子デュオが「クジ引きじゃなくて直接選んで貰えば?」と話す。
第一王子カイザーは、そんな発言をする弟達に驚いていた。
「そんなに可愛いのか?」
「……俺はどちらでもいい」
第二王子マルスは特に興味もないようだ。
「………………」
第六王子ルシファは黙々と食事を続けている。
すると突然、皆が集まるダイニングの扉がガチャリと開き、金髪の美男子が現れた。
「ずるいよー、僕も入れて!」
ひたすらフォークの先端を見つめ、先程まで一緒にいたエリザベートの事を思っていたシリルは、この場で聞こえるはずのないその声に、驚き椅子から立ち上がる。
「メイナード! お前いつの間に入って来たんだ⁈ 」
メイナードは大声を出すシリルの事をチラリと横目で見たが、特に気にもせず王と王妃に向けて、華麗にお辞儀をする。それから空いていた席に、当たり前のように腰掛けた。
それまで王子達の会話を静観していた王妃様は、食事の手を止めナプキンで口を拭うとおもむろに口を開いた。
「あなた達、あんなに人の姫は嫌だと言っていたじゃない」
面白くなさそうに、王妃は美しい白銀の尻尾を大きく一振りする。
ゼビオス王は、感情を露わにする王妃を笑みを浮かべながら見ていた。
「それは、リフテス人の男しか知らなかったからだよ。まさか女性があんなに小さく可愛いなんて思わなかったから」
デュオが黄金の目を細めながら王妃に話すと、同じようにハリアもその紺碧の瞳を輝かせた。
「エリザベート様、凄くかわいいんだ……」
まだエリザベートを見たことのない第七王子ヨシュアが「そんなに可愛いの?」と羨ましげに、さっきから立っているシリルに聞いてくる。
「ダメだ、エリザベートは俺の……妻になるんだ」
そう言って椅子に腰掛けたシリルは、さっきまで腕の中に抱えていたエリザベートを思い出し、顔を赤らめた。
そんなシリルの様子を、ゼビオス王は愉しげに見ている。
「そうよ、クジ引きはやり直さないわ。アレには私が魔法を掛けていたんだから! 印の付いた棒を引いた者が、人の姫とどんな形であれ、運命を持っているの」王妃が言うと、「その時僕は居なかったんだから、そのクジ引きは無効です。やり直して下さい! それでもシリルが印を引いたら皆、諦めます」と、メイナードが当然の如く言った。
「……そう?」
王妃は眉を顰める。
「ラビッツ家は元王族です。参加する権利なら僕にもある! 公爵だし! 身分的にも問題はありません」
麗しい顔で赤い目を煌めかせ、メイナードは言い切った。
王妃は、ほんの少し考えた後「そうね」と呟く。
「良いんですね、王妃様!」
メイナードの言葉に王妃が頷けば「えっ!」とシリルが目を見開いた。
「なんでメイナードが勝手に決めるんだよ!」
「そうだな、それでいい」
「じゃあ、最初に二回引いた人にしない?」
王子達はそれぞれに話を始める。
「いや、待ってくれ」
どんどん勝手に進む話を、シリルは止めようとした。まだエリザベートと出会ってたった一日しか過ごしていないが、今さら彼女と離れることは考えられなかったのだ。
だが「分かりました、皆の意見を尊重してもう一度クジ引きを行う。いいですね父上、母上」
黄金の尻尾をファサリと揺らし、長兄カイザーがゼビオス王に言った。
「いいだろう」
ゼビオス王が言うと、王妃もコクリと頷く。
「なっ! どうしてっ!」
「なんだシリル、まだたった一日、彼女もお前じゃなくても構わないはずだ」
「ぐっ……」
その意見には何も言えない。
シリルは仕方なくクジ引きに参加する事になった。
メイナードの参加によって、一本増やされた棒のクジを引く。
クジを選ぶ順番は長兄カイザーによって決められた。
年齢の順番で、と言ったカイザーだったが、シリルは一番最後に回された。
「なぜ、俺が最後なんだ」
「お前は一度当たりを引いているから、最後に決まっている」
「当たり……?」
あの時はハズレだと言ったくせに……。
しかし、シリルはそれ以上何も言わずクジを引いた。
「……何で? 何でまたシリル兄上が当たるんだよっ!」
最後に引いたシリルの棒に印があった。
納得いかないと言う兄弟達とメイナードの為、もう一度クジ引きをしたのだが、またもシリルの引いた棒の先に印が付いていた。
その後、メイナードの幼い兄弟達も押しかけて来た為に、仕方なく更に増やしたクジを引いたが、それでも印はシリルの引いた棒にあった。
「これで皆、納得したでしょう? シリルが姫の相手です。これは決定、そして彼女から結婚相手を選ぶことは許しません。いいですね」
王妃の深い青い目が皆を見据える。
そこにいた全員が、王妃に向け「分かりました」と礼をした。
◇
その後、シリルは部屋へと戻った。
よかった……。
その上、彼女からは選ぶ事は出来ないと母上に言われて、俺は安堵した。
兄弟達の中から選ばれるのであったなら、たぶん俺は選んで貰えないだろう。
兄弟達のなかでも一番黒い毛を持ち、体も大きい。良くも悪くも、父上に似た鋭い黄金の目は、会うものを震え上がらせる。
初めて会った時、彼女も震えていた。(怖がらせたから仕方ないが)
この見た目だ、きっと恐ろしかっただろう。
それなのに……今朝は、俺を美形だと褒めてくれた。
あんな事を言ってくれたのは彼女が初めてだ。
それに、横に座っても、馬に乗る為に抱きしめた時も、震えずにいてくれた。
……俺は……。
◇
今、私は寝室にいる。
寝るには少し邪魔なほど、フリルのたくさん着いた白い寝間着を着て、呆然と立っている私の前には、テキパキとベッドのシーツを取り替えるモリーさんの姿がある。
「ここで、シリル様と一緒に寝るんですか?」
「そうです。お二人は結婚されるのですから、何も問題ありません。それに、ベッドはここに一つしかございません。昨夜はシリル様はご自身の部屋にあるソファーでお休みになられた様ですが、それでは体が休まらなかったでしょう。
エリザベート様、一日も早くお二人が仲良くなる為にも是非ご一緒にお休み下さい」
モリーさんはベッドのシーツを取り替え終えると「それでは、エリザベート様お休みなさい」と言って部屋を出て行った。
寝室にポツンと取り残された私はベッドを見つめ呆然とする。
……シリル様と一緒に寝る。一緒に寝るの⁈
他人と寝るなんてした事ない。
母さんと寝たのだって、ずいぶん幼い頃だ。
だけど、結婚するんだから……。
それに私は子供を産まないと……。
「うわぁ……どうしよう……」
今まで、何となく子供を生んで帰ってメリーナを助けなければと思っていたけど……私、子供ができる様な事はした事ありません!
キスもまだないよっ⁈
キス……シリル様と……?
ふとシリル様の唇を思い出してしまった。
私よりも大きな口、薄い唇、少しだけ開かれると見える白い牙。
牙……キスの時怪我はしないのかしら?
でも、彼は怪我をしていないのだから、しないよね?
どうなのかしら?
……はっ!
カチャリ、と寝室の扉が開き、シリル様が黒い寝間着姿で入ってきた。
ベッドの前で直立不動している私を見て、彼もまた固まった。
「………………」
「………………」
(な、何かを話さないと! 何を⁈)
きまづい……。
キスの事を考えていたせいか、ついシリル様の唇に目が向いてしまう。
すると、シリル様が先に口を開いた。
「エリザベートはそちら側で、俺は君に背を向けて寝る様にするから、気にせず寝てくれないか……このままこうしていては体が冷えるだろう?」
「はい……」
シリル様の声は平静としていた。
いろいろ考えて意識していたのは、私だけだったみたいだ。
それに、よく考えたらシリル様はラビー様を好きなのだ。私は決められた結婚相手でしかない。
何も思わないのは当然だ。
すごく優しくされるから……。
好かれているのだと、勘違いする所だった。
私達は互いに背を向けて、ベッドへと横になった。