ハズレの姫は、獣人王子様から愛されたい〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜
危険な匂い
♪ あ~あ~、僕はひっとり~で~旅を~する~ ♪
翌日、宿屋で朝食を済ませた私達は、すぐにリフテスへと向け馬車を走らせた。
「こっちの道の方が早く国境に辿り着くから、ただ少し危ないかも知れないけどね。だけど、シリル兄さんがいるから大丈夫だよ」
ルシファ様の提案で、私がマフガルド王国へと来た道とは違う、少し険しい山道を通って行くことになった。
今日は山を越えなければならない、もしかしたら野宿をするかも知れないと、飲み物と食糧も沢山積んでいる。
朝から御者をしながら歌っているメイナード様は、昼食を食べ終え馬車を走らせると、また歌い出した。
♪ 一人~で~どこへ~向かうの~か~それは~誰も~し~ら~なぁ~いぃ~ ♪
「一人じゃないだろう……」
目の前に座っているシリル様が、メイナード様の歌を聴いてボソリと呟いていた。
「メイナードは、山を越えるまで、ずっと歌っているつもりなのかしら?」
「やはり、一人では寂しいのでしょうか?」
昨夜、ラビー姉様が『兎獣人は、寂しがり屋なの』と言っていた。
一人で御者をしているメイナード様は、寂しさを紛らわす為に歌っているのかも知れない。
「リラ、それはメイナードに言われたのか⁈ 」
なぜかシリル様が、狼狽(うろた)えている。
「昨日、ラビー姉様に聞いたんです」
そう答えると、シリル様はホッとした顔をした。
シリル様の横に座り、地図を見ていたルシファ様が顔を上げ、ちょっと驚いた様な顔を向ける。
「リラ様、ラビーのこと『姉様』って呼んでるの?」
「はい、昨夜からそう呼ばせてもらっています」
「あのねルシファ、シリルとリラは結婚するでしょ、私とあなたが結婚したら私達、家族になるわ。ラビーって呼んで、と言ったけどリラがそれは難しいっていうから『姉様』なの」
ラビー姉様が言うと、シリル様が「ぐっ……」と言って顔を逸らした。
……? どうしたんだろう……?
「僕はまだ、ラビーと結婚するとは言ったことないけどなぁ……」
ルシファ様もそう言って横を向いた。
さっきから、ううん、馬車に乗ってしばらく経つと、二人は尻尾をバシバシと動かし出した。
機嫌が悪いの? 何か怒ってる?
それともあの尻尾の動きは、何か別の意味があるのかな?
そう思っていたら、ラビー姉様が
「もうっ! 二人共、尻尾を叩くのはいい加減にして! そんなにリラの匂いが我慢出来ないの⁈」と、大声で言った。
「ーーーーえっ!」
私の匂いのせいで、あんなに尻尾を叩いているの⁈
思いがけなかった言葉に驚愕すると、シリル様とルシファ様は、慌てた様に手を横に振る。
「違う、リラそうじゃない!」
「リラ様のせいじゃないんだよ! 僕達の我慢が足りないんだ」
そう言いながら、二人の尻尾はバシバシと動き続けている。
そういえば、ラビー姉様は私から『危険な匂い』がするっていってた。
皆、ずっと『危険な匂い』を我慢して、それで……もう限界でイライラしていたの⁈
「ごめんなさい! 私が外に出て御者をします! あ、やった事ない。だったらせめて外に、メイナード様の横にお願いして座らせてもらいます」
「リラ、違う! その、匂いはするが」
シリル様は俯きながら話す。
ああっ、それ以上言って欲しくない。
好きな人から臭いって言われちゃったら、立ち直れないよ!
馬車の中で、私がこれ以上匂わない様に出来ることはない。
せめて危険な匂いが少しでも和らぐように、皆からなるだけ離れようと、動こうとした私の手をラビー姉様が握った。
「違うのよ、リラ。あなたは獣人の私達にとって、すごく好ましい匂いがするの。側にいるとギューッとしたくなって、舐めちゃいたいぐらい! 普段は平気なんだけど、この幌馬車の中で過ごしていると匂いを強く感じてしまうの。シリルとルシファは、ああやって尻尾を動かして耐えているのよ」
ラビー姉様はちょっと笑っている。
「好ましい? 耐えている?」
首を傾げ聞くと、シリル様とルシファ様は二人とも恥ずかしそうに頬を染め、頷いた。
「臭く無い? 私、危険な匂いじゃない?」
「やっぱり、それを覚えていたのね……臭くないわ、いい匂いよ。シリルもルシファもよく耐えていると思うわ。私は昨夜、思う存分リラを抱きしめて寝たから大丈夫なの。でも、メイナードがこの場にいたら十分程でリラを襲っているわね。あの子は本能に忠実だから」
♪ そう~だね~人生は~一度きり~チャンスは~の~がさな~い ♪
タイミングよくメイナード様の歌が聞こえてきて、ほらね、とラビー姉様がウインクをした。
「僕は、シリル兄さんの好きな人に欲情はしないよ。すごくいい匂いだと思うけど、それだけだから」
サラリとルシファ様が言う。
ん?……今、好きな人って……。
♪ つ~かまえて~いて~馬が走るよ~彼女は~腕の中に~♪
急にメイナード様が大きな声で歌い出した。
「リラ、こっちへ」
歌を聞いたシリル様が、私をフワリと抱き寄せて腕の中へ抱きしめる。
ルシファ様がラビー姉様の隣へと移り、抱きしめるとすぐに、グウンと馬車がスピードを上げた。
「シリル! 矢が来る! 防御っ‼︎」
「分かった」
歌う事を止めたメイナード様が叫び、シリル様が指を二回鳴らす。
すぐに、キィン キィンという音が幾つも聞こえた。
「ダメだ、囲まれた」
メイナード様の諦めた様な声が聞こえ、馬車は速度を落とし止まった。
何が起きているのか分からずドキドキしていると「リラ、大丈夫だから」そう言って、ギュッとシリル様は強く私を抱きしめてくれた。
ラビー姉様はルシファ様から離れ、幌の隙間から外の様子を伺っている。
「山賊だわ」
「山賊?」
「ええ、彼らはお金さえ渡せば大丈夫だと思うけど……」
ラビー姉様はチラッと私を見た。
「何があるか分からないから、リラはシリルから絶対離れちゃダメよ」
真剣な顔で言われ、不安になった私は何度も頷いて、シリル様の服を握った。
外で御者をするメイナード様が、山賊と話を始めている。
「お前たち、ここが誰の縄張りか分かっているのか?」
山賊だろうか、まだ若い男の人の声がする。
「知らないよ」
メイナード様は、静かな声で答えた。
「ここはカダル山賊の縄張りだ。通行料さえ払えば俺達は何もしない」
「いや、既に矢を放って来ただろう⁈」
「何の挨拶もなく通過しようとしたからな、威嚇の為掠めただけだ、当てる気は無かったさ」
クククッと、笑い声が聞こえてくる。
「分かった、いくら? 言われた金額を払うから、これ以上は何もしないでくれよ」
メイナード様がそう言って、お金を払おうとした時。
「ちょっと待て……なんだ? この匂いは……おい、馬車の中に乗っている奴を見せろ」
「匂い? 乗っているのは僕の兄弟だよ、姉さんの匂いでもするの?」
「違う、これは獣人の匂いじゃない。……なんだ?」
「食べ物かな? 山越の為に、たくさん積んでるから」
ちょっと惚けた感じでメイナード様が話す。
「いや、そんな物じゃない。……人の匂いだ。金はいらない、この匂いの者を寄越せ」
「寄越せって言われて、渡す奴はいないよ」
「黙れ」
ピシッという音がした。
「ちょっと、拘束なんて酷いことしないでよ……」
メイナード様の声がする。
「防御魔法がかけてあるぞ」
「……かなり強いな……貴族でも乗っているのか?」
「こいつを使え」
山賊達が何やら話をした直後に、キィンという金属音がし、馬車の幌が開かれた。
翌日、宿屋で朝食を済ませた私達は、すぐにリフテスへと向け馬車を走らせた。
「こっちの道の方が早く国境に辿り着くから、ただ少し危ないかも知れないけどね。だけど、シリル兄さんがいるから大丈夫だよ」
ルシファ様の提案で、私がマフガルド王国へと来た道とは違う、少し険しい山道を通って行くことになった。
今日は山を越えなければならない、もしかしたら野宿をするかも知れないと、飲み物と食糧も沢山積んでいる。
朝から御者をしながら歌っているメイナード様は、昼食を食べ終え馬車を走らせると、また歌い出した。
♪ 一人~で~どこへ~向かうの~か~それは~誰も~し~ら~なぁ~いぃ~ ♪
「一人じゃないだろう……」
目の前に座っているシリル様が、メイナード様の歌を聴いてボソリと呟いていた。
「メイナードは、山を越えるまで、ずっと歌っているつもりなのかしら?」
「やはり、一人では寂しいのでしょうか?」
昨夜、ラビー姉様が『兎獣人は、寂しがり屋なの』と言っていた。
一人で御者をしているメイナード様は、寂しさを紛らわす為に歌っているのかも知れない。
「リラ、それはメイナードに言われたのか⁈ 」
なぜかシリル様が、狼狽(うろた)えている。
「昨日、ラビー姉様に聞いたんです」
そう答えると、シリル様はホッとした顔をした。
シリル様の横に座り、地図を見ていたルシファ様が顔を上げ、ちょっと驚いた様な顔を向ける。
「リラ様、ラビーのこと『姉様』って呼んでるの?」
「はい、昨夜からそう呼ばせてもらっています」
「あのねルシファ、シリルとリラは結婚するでしょ、私とあなたが結婚したら私達、家族になるわ。ラビーって呼んで、と言ったけどリラがそれは難しいっていうから『姉様』なの」
ラビー姉様が言うと、シリル様が「ぐっ……」と言って顔を逸らした。
……? どうしたんだろう……?
「僕はまだ、ラビーと結婚するとは言ったことないけどなぁ……」
ルシファ様もそう言って横を向いた。
さっきから、ううん、馬車に乗ってしばらく経つと、二人は尻尾をバシバシと動かし出した。
機嫌が悪いの? 何か怒ってる?
それともあの尻尾の動きは、何か別の意味があるのかな?
そう思っていたら、ラビー姉様が
「もうっ! 二人共、尻尾を叩くのはいい加減にして! そんなにリラの匂いが我慢出来ないの⁈」と、大声で言った。
「ーーーーえっ!」
私の匂いのせいで、あんなに尻尾を叩いているの⁈
思いがけなかった言葉に驚愕すると、シリル様とルシファ様は、慌てた様に手を横に振る。
「違う、リラそうじゃない!」
「リラ様のせいじゃないんだよ! 僕達の我慢が足りないんだ」
そう言いながら、二人の尻尾はバシバシと動き続けている。
そういえば、ラビー姉様は私から『危険な匂い』がするっていってた。
皆、ずっと『危険な匂い』を我慢して、それで……もう限界でイライラしていたの⁈
「ごめんなさい! 私が外に出て御者をします! あ、やった事ない。だったらせめて外に、メイナード様の横にお願いして座らせてもらいます」
「リラ、違う! その、匂いはするが」
シリル様は俯きながら話す。
ああっ、それ以上言って欲しくない。
好きな人から臭いって言われちゃったら、立ち直れないよ!
馬車の中で、私がこれ以上匂わない様に出来ることはない。
せめて危険な匂いが少しでも和らぐように、皆からなるだけ離れようと、動こうとした私の手をラビー姉様が握った。
「違うのよ、リラ。あなたは獣人の私達にとって、すごく好ましい匂いがするの。側にいるとギューッとしたくなって、舐めちゃいたいぐらい! 普段は平気なんだけど、この幌馬車の中で過ごしていると匂いを強く感じてしまうの。シリルとルシファは、ああやって尻尾を動かして耐えているのよ」
ラビー姉様はちょっと笑っている。
「好ましい? 耐えている?」
首を傾げ聞くと、シリル様とルシファ様は二人とも恥ずかしそうに頬を染め、頷いた。
「臭く無い? 私、危険な匂いじゃない?」
「やっぱり、それを覚えていたのね……臭くないわ、いい匂いよ。シリルもルシファもよく耐えていると思うわ。私は昨夜、思う存分リラを抱きしめて寝たから大丈夫なの。でも、メイナードがこの場にいたら十分程でリラを襲っているわね。あの子は本能に忠実だから」
♪ そう~だね~人生は~一度きり~チャンスは~の~がさな~い ♪
タイミングよくメイナード様の歌が聞こえてきて、ほらね、とラビー姉様がウインクをした。
「僕は、シリル兄さんの好きな人に欲情はしないよ。すごくいい匂いだと思うけど、それだけだから」
サラリとルシファ様が言う。
ん?……今、好きな人って……。
♪ つ~かまえて~いて~馬が走るよ~彼女は~腕の中に~♪
急にメイナード様が大きな声で歌い出した。
「リラ、こっちへ」
歌を聞いたシリル様が、私をフワリと抱き寄せて腕の中へ抱きしめる。
ルシファ様がラビー姉様の隣へと移り、抱きしめるとすぐに、グウンと馬車がスピードを上げた。
「シリル! 矢が来る! 防御っ‼︎」
「分かった」
歌う事を止めたメイナード様が叫び、シリル様が指を二回鳴らす。
すぐに、キィン キィンという音が幾つも聞こえた。
「ダメだ、囲まれた」
メイナード様の諦めた様な声が聞こえ、馬車は速度を落とし止まった。
何が起きているのか分からずドキドキしていると「リラ、大丈夫だから」そう言って、ギュッとシリル様は強く私を抱きしめてくれた。
ラビー姉様はルシファ様から離れ、幌の隙間から外の様子を伺っている。
「山賊だわ」
「山賊?」
「ええ、彼らはお金さえ渡せば大丈夫だと思うけど……」
ラビー姉様はチラッと私を見た。
「何があるか分からないから、リラはシリルから絶対離れちゃダメよ」
真剣な顔で言われ、不安になった私は何度も頷いて、シリル様の服を握った。
外で御者をするメイナード様が、山賊と話を始めている。
「お前たち、ここが誰の縄張りか分かっているのか?」
山賊だろうか、まだ若い男の人の声がする。
「知らないよ」
メイナード様は、静かな声で答えた。
「ここはカダル山賊の縄張りだ。通行料さえ払えば俺達は何もしない」
「いや、既に矢を放って来ただろう⁈」
「何の挨拶もなく通過しようとしたからな、威嚇の為掠めただけだ、当てる気は無かったさ」
クククッと、笑い声が聞こえてくる。
「分かった、いくら? 言われた金額を払うから、これ以上は何もしないでくれよ」
メイナード様がそう言って、お金を払おうとした時。
「ちょっと待て……なんだ? この匂いは……おい、馬車の中に乗っている奴を見せろ」
「匂い? 乗っているのは僕の兄弟だよ、姉さんの匂いでもするの?」
「違う、これは獣人の匂いじゃない。……なんだ?」
「食べ物かな? 山越の為に、たくさん積んでるから」
ちょっと惚けた感じでメイナード様が話す。
「いや、そんな物じゃない。……人の匂いだ。金はいらない、この匂いの者を寄越せ」
「寄越せって言われて、渡す奴はいないよ」
「黙れ」
ピシッという音がした。
「ちょっと、拘束なんて酷いことしないでよ……」
メイナード様の声がする。
「防御魔法がかけてあるぞ」
「……かなり強いな……貴族でも乗っているのか?」
「こいつを使え」
山賊達が何やら話をした直後に、キィンという金属音がし、馬車の幌が開かれた。