ハズレの姫は、獣人王子様から愛されたい〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜
宴で
山賊達は一斉に宴の準備を始めた。
あちらこちらに丸太を切り出して作った椅子が並べられ、同じように木で作ったテーブルが点々と置かれていく。
たくさんの肉が焼かれ香ばしい匂いが漂う。
山賊達は、男も女も関係なく、皆で楽しそうに料理を作り、子供達も木で作ったカップに飲み物を注ぎ配ったりと手伝いをしていた。
私達も手伝おうと声をかけたが、あなた達はお客だから、と丁重に断られてしまった。
料理がある程度出来上がり、宴が始まった。
メイナード様の周りには、女性が何人も集まり、隣の席を取り合っている。テーブルの上は、それぞれが持ってきた料理で、いっぱいになっていた。
「僕はお酒はあまり強くないんだよ? 酔ったら君達が介抱してくれるの?」
「する、する~!」
甘えた様に話すメイナード様は、女性達が持ってきたお酒を顔色一つ変えずに、カポカポと飲み干していく。
大丈夫なの?
呆然として見ていたら、シリル様が笑みを浮かべて教えてくれた。
「あんなことを言っているが、メイナードが酒に酔ったところを、俺は一度も見たことはない」
そうなんだ、ともう一度メイナード様に目を向けると、お酒を渡しながら彼の顔のあちらこちらにキスをしている女性達の姿が、目に入ってしまった。
獣人女性は積極的なのかな?
それとも、あれぐらいはなんて事ないものなの?
少し離れたところに座っているルシファ様にも、数人の女性が集まってくる。料理を運んだ後、ラビー姉様の目を盗んでルシファ様の髪に触れたり、サッと隣に座って、尻尾を絡めたりしている。
ルシファ様は、特に嫌がる様子も無ければ喜んでいる訳でもないようだ。
ラビー姉様にも何人もの男性が声をかけている。「私はルシファのだからダメ」と、キッパリ断るが、男性達は引き下がる事はなく「君はまだ、結婚してないだろう? 一晩だけだよ、後腐れはないし俺、結構いいんだぜ?」とグイグイ迫っていた。
「もうっ! うるさいっ!」
ラビー姉様はルシファ様の腕を組んで、横に座った。
そんな様子を見て、ベレンジャーさんはケラケラ笑っている。
「俺達は余所者とは滅多に交流もないし、ラビーお嬢さんはかなりの上玉だからな、皆簡単には引き下がらないさ」
確かに、男性達は一向に諦める様子を見せてはいないようだ。
……頑張って、ラビー姉様。
シリル様と私の前のテーブルも、たくさんの料理が並べられた。
「ありがとうございます」
料理を運んでくれた、若い栗鼠獣人の男性達にお礼を言うと、彼等は目をキラキラさせた。
「ふわぁっ! かわいいっ!」
「僕が食べさせてあげるねっ!」
「ほら、オレのを食べてよ!」
「「「あーん」」」
若い男性三人が、一斉に串に刺した肉を私に差し出した。
獣人の人達は、こうやって食べさせる事は普通なのかな?
それとも私のこと、小さな子供と思ってる?
クイッと差し出されるお肉。
(食べた方がいいのかな?)
「お前達、そのお嬢さんは子供じゃないんだぞ? 分かってやってるんだろうな?」
シリル様と向かい合って酒を飲んでいたベレンジャーさんが、口角を上げ三人に言う。
「「「分かって……」」」
三人は、シリル様を見てハッとし、途端に青ざめて、差し出していた肉を自分の口の中に放り込み、モグモグしながら笑みを浮かべ後退っていった。
「リラ」
不意にシリル様が私の肩を引き寄せた。
彼から、フワッと甘い果実酒の香りがする。
「これ、リラの好きな果物だろう」
シリル様はそう言うと、果物をフォークに刺し、私の口元へ運ぶ。
(あっ、朝食の時に出た美味しかった果物だ!)
口を開けようとした時、ニヤニヤと笑って見ているベレンジャーさんが目を入った。
シリル様も気付いたようで、慌てたようにフォークを私の手に持たせた。
…………あっ!
この時、ようやく私は気付いた。
食べさせる行為は、獣人達には普通の事なのだ。
それも、子供に行う事なんだろう。
実は、ちょっと恋人同士みたいだと思っていた。
でも、先程会ったばかりの獣人男性も、当たり前の様に私に食べさせようとした。私のことを、子供だと思っていたんだ。
ベレンジャーさんも、子供じゃないんだぞって言っていたし。
それなら、シリル様の今までの行為も……子供に食べさせている感じだったという事?
最初に子供って言われていたしね……。
なんだ……。
そうか……。
シリル様からもらった果物は、あの日食べた物より酸っぱく感じた。
◇
中央の大きな焚火が、パチパチと音を立てている。
楽器を奏でる者や、それに合わせて踊り出す大人と子供達、皆それぞれ宴を楽しんでいる。
シリル様とベレンジャーさんは本当に仲が良くて、二人はよく話をし、笑い合っていた。
シリル様があんなに笑っている顔は初めて見る。
焚火のオレンジ色の灯りを見ていると、なんだか、私はここに居てはいけない様な気がして来た。
だって……当たり前だけど、私だけ獣耳も尻尾もない。
皆、私にニコニコ笑いかけてくれるけど、遠巻きに見ているだけで、近づいて話しかけてはくれない。
シリル様やラビー姉様達が、普通に接してくれていたから忘れていたのだ。
私は、どんなに獣人が好む匂いがしようとも、マフガルドの人々が嫌いなリフテス人。
そんな事を考えていると、カップを手にした女の人が笑顔で近づいてきてくれた。
「リラ様、飲み物をどうぞ」
「ありがとうございます」
キレイな狐獣人の女の人が渡してくれた飲み物を、確かめもせずに一口飲むと、それは野苺の果実酒だった。
「あの、ごめんなさい。私、お酒飲めないんです」
ああ、口をつける前に気づけばよかった。
キレイな人はニッコリと笑って「ごめんなさい、私達はあなたぐらいの歳から飲むものだから、飲めると思っていたわ」そう言って私の手からカップを取ると、中身を草むらに捨てた。
「向こうに他の飲み物もありますよ? いろいろあるので、せっかくならリラ様に選んで頂こうかしら」
彼女は、右奥にあるテントの前に並ぶ樽を指差し、微笑んだ。
「はい」
シリル様に、飲み物を取ってくると一言告げて、私は彼女に付いて行った。
樽の前まで来ると、彼女がくるりと振り向き、白い歯を見せた。
小さな牙がキラリと光る。
「リラ様、このすぐ先に素敵な所があるんです。今の時期しか見ることの出来ない『ホーリリー』という、水の中に咲く花が咲いている場所なんですけど、ちょっとだけ見に行きませんか? 明日の早朝には出発されるんでしょう?」
「え、ええ……ですが」
「大丈夫ですよ、二人だけだと心配でしょう? 私の友人も一緒に行きますから」
そう言うと、キレイな女の人は「カリー、ナディ、タナリア、一緒に行こうよ!」と声をかける。
名前を呼ばれた黒く細めの尻尾の狐獣人と、真っ白のフサフサとした尻尾の凄艶な狐獣人、赤毛の狐獣人の女性達がやって来た。
「何? ニノン、どこに行くって?」
「あのさ、リラ様にホーリリーを見せてあげようと思ってさ」
「ああ、いいね」
行くと返事をしていない私を、ヒョイッと白い尻尾の凄艶な女性が子供の様に抱える。
「あのっ」
「私はナディです。リラ様、しっかりと掴まっていてくださいね」
「えっ」
彼女はスッと歩き出し、思わず首にしがみ付いた。
ナディさんからは、甘い大人の女性らしい匂いがする。
彼女達は木々の間を分け入り、道なき道をスタスタと進んでいく。
宴の明かりはあっという間に見えなくなり、私は不安になってしまった。
四人はどんどん山の中を進んでいく。しばらくすると、水の音が聞こえてきた。
あちらこちらに丸太を切り出して作った椅子が並べられ、同じように木で作ったテーブルが点々と置かれていく。
たくさんの肉が焼かれ香ばしい匂いが漂う。
山賊達は、男も女も関係なく、皆で楽しそうに料理を作り、子供達も木で作ったカップに飲み物を注ぎ配ったりと手伝いをしていた。
私達も手伝おうと声をかけたが、あなた達はお客だから、と丁重に断られてしまった。
料理がある程度出来上がり、宴が始まった。
メイナード様の周りには、女性が何人も集まり、隣の席を取り合っている。テーブルの上は、それぞれが持ってきた料理で、いっぱいになっていた。
「僕はお酒はあまり強くないんだよ? 酔ったら君達が介抱してくれるの?」
「する、する~!」
甘えた様に話すメイナード様は、女性達が持ってきたお酒を顔色一つ変えずに、カポカポと飲み干していく。
大丈夫なの?
呆然として見ていたら、シリル様が笑みを浮かべて教えてくれた。
「あんなことを言っているが、メイナードが酒に酔ったところを、俺は一度も見たことはない」
そうなんだ、ともう一度メイナード様に目を向けると、お酒を渡しながら彼の顔のあちらこちらにキスをしている女性達の姿が、目に入ってしまった。
獣人女性は積極的なのかな?
それとも、あれぐらいはなんて事ないものなの?
少し離れたところに座っているルシファ様にも、数人の女性が集まってくる。料理を運んだ後、ラビー姉様の目を盗んでルシファ様の髪に触れたり、サッと隣に座って、尻尾を絡めたりしている。
ルシファ様は、特に嫌がる様子も無ければ喜んでいる訳でもないようだ。
ラビー姉様にも何人もの男性が声をかけている。「私はルシファのだからダメ」と、キッパリ断るが、男性達は引き下がる事はなく「君はまだ、結婚してないだろう? 一晩だけだよ、後腐れはないし俺、結構いいんだぜ?」とグイグイ迫っていた。
「もうっ! うるさいっ!」
ラビー姉様はルシファ様の腕を組んで、横に座った。
そんな様子を見て、ベレンジャーさんはケラケラ笑っている。
「俺達は余所者とは滅多に交流もないし、ラビーお嬢さんはかなりの上玉だからな、皆簡単には引き下がらないさ」
確かに、男性達は一向に諦める様子を見せてはいないようだ。
……頑張って、ラビー姉様。
シリル様と私の前のテーブルも、たくさんの料理が並べられた。
「ありがとうございます」
料理を運んでくれた、若い栗鼠獣人の男性達にお礼を言うと、彼等は目をキラキラさせた。
「ふわぁっ! かわいいっ!」
「僕が食べさせてあげるねっ!」
「ほら、オレのを食べてよ!」
「「「あーん」」」
若い男性三人が、一斉に串に刺した肉を私に差し出した。
獣人の人達は、こうやって食べさせる事は普通なのかな?
それとも私のこと、小さな子供と思ってる?
クイッと差し出されるお肉。
(食べた方がいいのかな?)
「お前達、そのお嬢さんは子供じゃないんだぞ? 分かってやってるんだろうな?」
シリル様と向かい合って酒を飲んでいたベレンジャーさんが、口角を上げ三人に言う。
「「「分かって……」」」
三人は、シリル様を見てハッとし、途端に青ざめて、差し出していた肉を自分の口の中に放り込み、モグモグしながら笑みを浮かべ後退っていった。
「リラ」
不意にシリル様が私の肩を引き寄せた。
彼から、フワッと甘い果実酒の香りがする。
「これ、リラの好きな果物だろう」
シリル様はそう言うと、果物をフォークに刺し、私の口元へ運ぶ。
(あっ、朝食の時に出た美味しかった果物だ!)
口を開けようとした時、ニヤニヤと笑って見ているベレンジャーさんが目を入った。
シリル様も気付いたようで、慌てたようにフォークを私の手に持たせた。
…………あっ!
この時、ようやく私は気付いた。
食べさせる行為は、獣人達には普通の事なのだ。
それも、子供に行う事なんだろう。
実は、ちょっと恋人同士みたいだと思っていた。
でも、先程会ったばかりの獣人男性も、当たり前の様に私に食べさせようとした。私のことを、子供だと思っていたんだ。
ベレンジャーさんも、子供じゃないんだぞって言っていたし。
それなら、シリル様の今までの行為も……子供に食べさせている感じだったという事?
最初に子供って言われていたしね……。
なんだ……。
そうか……。
シリル様からもらった果物は、あの日食べた物より酸っぱく感じた。
◇
中央の大きな焚火が、パチパチと音を立てている。
楽器を奏でる者や、それに合わせて踊り出す大人と子供達、皆それぞれ宴を楽しんでいる。
シリル様とベレンジャーさんは本当に仲が良くて、二人はよく話をし、笑い合っていた。
シリル様があんなに笑っている顔は初めて見る。
焚火のオレンジ色の灯りを見ていると、なんだか、私はここに居てはいけない様な気がして来た。
だって……当たり前だけど、私だけ獣耳も尻尾もない。
皆、私にニコニコ笑いかけてくれるけど、遠巻きに見ているだけで、近づいて話しかけてはくれない。
シリル様やラビー姉様達が、普通に接してくれていたから忘れていたのだ。
私は、どんなに獣人が好む匂いがしようとも、マフガルドの人々が嫌いなリフテス人。
そんな事を考えていると、カップを手にした女の人が笑顔で近づいてきてくれた。
「リラ様、飲み物をどうぞ」
「ありがとうございます」
キレイな狐獣人の女の人が渡してくれた飲み物を、確かめもせずに一口飲むと、それは野苺の果実酒だった。
「あの、ごめんなさい。私、お酒飲めないんです」
ああ、口をつける前に気づけばよかった。
キレイな人はニッコリと笑って「ごめんなさい、私達はあなたぐらいの歳から飲むものだから、飲めると思っていたわ」そう言って私の手からカップを取ると、中身を草むらに捨てた。
「向こうに他の飲み物もありますよ? いろいろあるので、せっかくならリラ様に選んで頂こうかしら」
彼女は、右奥にあるテントの前に並ぶ樽を指差し、微笑んだ。
「はい」
シリル様に、飲み物を取ってくると一言告げて、私は彼女に付いて行った。
樽の前まで来ると、彼女がくるりと振り向き、白い歯を見せた。
小さな牙がキラリと光る。
「リラ様、このすぐ先に素敵な所があるんです。今の時期しか見ることの出来ない『ホーリリー』という、水の中に咲く花が咲いている場所なんですけど、ちょっとだけ見に行きませんか? 明日の早朝には出発されるんでしょう?」
「え、ええ……ですが」
「大丈夫ですよ、二人だけだと心配でしょう? 私の友人も一緒に行きますから」
そう言うと、キレイな女の人は「カリー、ナディ、タナリア、一緒に行こうよ!」と声をかける。
名前を呼ばれた黒く細めの尻尾の狐獣人と、真っ白のフサフサとした尻尾の凄艶な狐獣人、赤毛の狐獣人の女性達がやって来た。
「何? ニノン、どこに行くって?」
「あのさ、リラ様にホーリリーを見せてあげようと思ってさ」
「ああ、いいね」
行くと返事をしていない私を、ヒョイッと白い尻尾の凄艶な女性が子供の様に抱える。
「あのっ」
「私はナディです。リラ様、しっかりと掴まっていてくださいね」
「えっ」
彼女はスッと歩き出し、思わず首にしがみ付いた。
ナディさんからは、甘い大人の女性らしい匂いがする。
彼女達は木々の間を分け入り、道なき道をスタスタと進んでいく。
宴の明かりはあっという間に見えなくなり、私は不安になってしまった。
四人はどんどん山の中を進んでいく。しばらくすると、水の音が聞こえてきた。