ハズレの姫は、獣人王子様から愛されたい〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜
嫉妬?
その後、国境門で無事に換金を済ませた私達は、リフテス城を目指し馬を走らせた。
馬車を引いていたシリル様の愛馬ルルには、私とシリル様が、黒馬ビルにはルシファ様とラビー姉様。
それから、白馬にはメイナード様と荷物。
メイナード様は、いつもより地味な装いで荷物と一緒にも関わらず、何処かの国の王子様のようにキラキラと輝いて見えた。
軽快に馬を走らせ、小さな村や町を通り抜けていく。
「リラ、こんなに長時間馬に乗ったのは初めてだろう? 疲れたら言ってくれ」
「はい、まだ大丈夫です」
何度も優しく声を掛けてくれるシリル様。
彼はやっぱり優しい人だ。
◇
それから程なくして、昼食を取ろうと私達は町中にあった食堂に入った。
昼時を過ぎていたが、店の中は大変賑わっていた。
人が多すぎる、と一旦店を出ようとしたが、すぐに店員に引き止められ、席に案内された。
そこで、私達は(正確には私以外)注目の的となってしまったのだ。
外で待たせているマフガルド産の大きな馬も、リフテス王国ではまだ珍しく、注目を受ける理由の一つではあったが、それよりもシリル様達の長身で美麗な容姿が、食堂にいた人々を引きつけてしまった。
私やラビー姉様がいるにもかかわらず、すぐ近くの席に座り、話かけてくる女性達。
「一緒に食べませんか?」と来る女性達を、ルシファ様は無表情ではあるが、丁寧に断っていた。
普段から女性に優しいメイナード様は、笑みを浮かべながら、優しい対応で会話を返している。
シリル様は女性に慣れていないからか、恥ずかしそうに対応する。そのせいで、見た目とのギャップが可愛いと、余計に話しかけられていた。
シリル様に話しかける、綺麗で可愛い女性達。
その女性達と会話をする彼を見ていた私の胸は、チクチクと痛んでいた。
好きだと言って貰ったけれど、結婚の約束もしているけれど、シリル様が他の人を好きになっちゃったら……。
そんな事を考えてしまう。
◇
「目立ち過ぎたね。それに……もう、あんなのは懲り懲りだよ。食堂には入らなくていいから」
意外な事に、最初にそう言ったのはメイナード様だった。
「積極的な女性も嫌いじゃないけどね。僕、追われるのはあまり好きじゃないんだ。それに、彼女達からは変な匂いがする」
メイナード様は顔を顰めていた。
「ああ、香水だろう? みんな着けていたから、混ざり合っておかしな匂いがした」
シリル様は疲れた顔をしている。
今、彼等の見た目はリフテス人だ。けれど、匂いや聞こえ方は獣人の姿の時と変わらないらしい。
「私も辛かったわ」と言ったラビー姉様が、私をギュッと抱きしめて、スゥーっと深呼吸をした。
「ああ、落ち着くわ。どうしてかしら? リラはこんなにいい匂いなのにね」
「ありがとうございます」
……香水は高価だ。持っていた事も、着けたこともない。
私には、女性達のお化粧や香水の匂いは、甘くていい匂いに感じたけれど、嗅覚が鋭い獣人にとっては強い匂いなのかも知れない。
ただ、ラビー姉様達は私をいい匂いと言ってくれるけど、やっぱり自分では分からない。
どんな匂いなんだろうと、クンクンと体を匂っていると、それを見ていた皆が笑った。
それからは、できる限りリフテス人と関わらないように過ごした。
けれどマフガルドの馬は大きく、地味な装いにしていても彼等は容姿端麗、生まれながらの王子、公爵令嬢、令息なのだ。立ち居振る舞いも気品がある。メイナード様は何故かキラキラ輝いて見える。本人達の意思とは関係なく、どうしても目立つ。
だから移動中、彼等は目深に帽子を被り、地味な色味のコートを羽織るようにし、なるべく立ち止まらず、休憩は人気のない場所まで進みとるようにした。
その日の夜遅く、町外れの小さな宿に入った。
私とラビー姉様が部屋に入ると、シリル様がこの鍵では信用ならないと扉に防御魔法をかけた。
それは、知らない者が扉に触れると弾き飛ばされる、という強力なものだった。
◇
シリル達は、リラとラビーの部屋の隣の部屋へと入った。
部屋に入るなり、メイナードは
「ごめん、悪いけど先にお風呂に入らせて。僕この匂い無理」
そう言って、浴室へと向かった。
メイナードはレストランで、かなりベタベタと触られていた。そこまで嫌悪している様には見えなかったが、我慢していただけのようだ。
その後でルシファが、最後にシリルが浴室へと向かった。
風呂場で、シリルは後ろに流し固めていた髪を入念に洗いながら考えていた。
ルシファの魔法により、獣耳と尻尾のない姿となったシリル。
彼は非常に困惑していた。
今までは、何をせずとも怖がられ、目を背けられる事ばかりだった。ところが、獣耳と尻尾がなくなり、髪形を変えた途端に女性から好意のある目で見られ、声を掛けられるようになったのだ。
ーーーー慣れない。
何が変わったというのだろうか?
変わった……のだろうか?
……そういえば、リラも様子が変わっていた。
今朝、ラビーに防御魔法をかけていた時、急にリラが思い詰めたような顔をした為、つい頬に手を添えた。
するとリラが、袖をギュッと握り甘く見つめてきたのだ。
それはまるで俺を求める様な目だった。
つい顔を寄せキスをしそうになったが……。
あの時、ルシファが声を掛けなければ、ニヤニヤと笑うラビーとメイナードに見られて、初めてのキスをするところだった。
……見られながらキスをするのは嫌だ。
それに、この仮の姿では……。
はっ、そんな事はどうでもいい、嫌、よくもないが。
どうやら、獣耳と尻尾が無く髪をまとめている俺は、リフテスの女性に好かれるらしい。
女性から話しかけられる事に慣れていない俺は、つい言葉を返していたのだが、間違えていたようだ。
ルシファのように、話をしたくなければ上手くあしらわなければならなかった。
何故なら、この国に入ってからリラがとても寂しそうな表情をするようになったのだ。
笑みを浮かべているのに、哀しそうで不安げな表情が垣間見える。
その表情を見せるのは、俺が他の女性と話をしている時だ。
もしかして、俺が女性と話をするのが嫌?
それは……嫉妬ではないのか?
もしかしたら、違うことが心にあるのかも知れない。
この考えは、俺の自惚れでしかない。
……けれど、もしそうなら。
君の心の中を確かめたい……そう思っても、今の俺には尻尾がない。
いや、いつまでも尻尾に頼る訳にもいかないが……。
リラ……。
俺は、君意外はなんとも思わない。
この国の女性は獣人女性より小柄だ。可愛らしい女性も確かにいる。
だが、君といる時のような気持ちにはならないんだ。
愛しいと、側にいたいと焦がれる気持ちは、君にしか湧いてこない。
……だから、そんな顔をしないで欲しい。
そんな不安そうな顔をしないで欲しい。
シリルは、宿の小さな湯船に膝を曲げて入り小さくため息を吐いた。
◇
メイナードは、ベッドに寝ながらすべてを聞いていた。
……シリルは口に出しているつもりはないんだろう。
うーん、もしかすると、聞こえていないと思って口に出しているのかな?
残念だけど僕には全部聞こえているんだよね。
両思いなんだからリラ様に直接伝えればいいだけなのに、シリルはそれが出来ないからなぁ。
……何か、他にも僕が手伝える事があるかなぁ?
カチャリと扉が開き、シリルが部屋へと戻ってくる。
メイナードはいつものように指をクルクル回し、赤く光る輪っかを作りシリルの髪へと飛ばす。
フワリと髪が乾き、シリルがメイナードへお礼を述べた。
シリルはメイナードより歳上なのに、命令したり横柄な態度はとった事がない。
だから僕はシリルが好きだし、構いたくなるんだよなぁ……眠りながらメイナードは思っていた。
馬車を引いていたシリル様の愛馬ルルには、私とシリル様が、黒馬ビルにはルシファ様とラビー姉様。
それから、白馬にはメイナード様と荷物。
メイナード様は、いつもより地味な装いで荷物と一緒にも関わらず、何処かの国の王子様のようにキラキラと輝いて見えた。
軽快に馬を走らせ、小さな村や町を通り抜けていく。
「リラ、こんなに長時間馬に乗ったのは初めてだろう? 疲れたら言ってくれ」
「はい、まだ大丈夫です」
何度も優しく声を掛けてくれるシリル様。
彼はやっぱり優しい人だ。
◇
それから程なくして、昼食を取ろうと私達は町中にあった食堂に入った。
昼時を過ぎていたが、店の中は大変賑わっていた。
人が多すぎる、と一旦店を出ようとしたが、すぐに店員に引き止められ、席に案内された。
そこで、私達は(正確には私以外)注目の的となってしまったのだ。
外で待たせているマフガルド産の大きな馬も、リフテス王国ではまだ珍しく、注目を受ける理由の一つではあったが、それよりもシリル様達の長身で美麗な容姿が、食堂にいた人々を引きつけてしまった。
私やラビー姉様がいるにもかかわらず、すぐ近くの席に座り、話かけてくる女性達。
「一緒に食べませんか?」と来る女性達を、ルシファ様は無表情ではあるが、丁寧に断っていた。
普段から女性に優しいメイナード様は、笑みを浮かべながら、優しい対応で会話を返している。
シリル様は女性に慣れていないからか、恥ずかしそうに対応する。そのせいで、見た目とのギャップが可愛いと、余計に話しかけられていた。
シリル様に話しかける、綺麗で可愛い女性達。
その女性達と会話をする彼を見ていた私の胸は、チクチクと痛んでいた。
好きだと言って貰ったけれど、結婚の約束もしているけれど、シリル様が他の人を好きになっちゃったら……。
そんな事を考えてしまう。
◇
「目立ち過ぎたね。それに……もう、あんなのは懲り懲りだよ。食堂には入らなくていいから」
意外な事に、最初にそう言ったのはメイナード様だった。
「積極的な女性も嫌いじゃないけどね。僕、追われるのはあまり好きじゃないんだ。それに、彼女達からは変な匂いがする」
メイナード様は顔を顰めていた。
「ああ、香水だろう? みんな着けていたから、混ざり合っておかしな匂いがした」
シリル様は疲れた顔をしている。
今、彼等の見た目はリフテス人だ。けれど、匂いや聞こえ方は獣人の姿の時と変わらないらしい。
「私も辛かったわ」と言ったラビー姉様が、私をギュッと抱きしめて、スゥーっと深呼吸をした。
「ああ、落ち着くわ。どうしてかしら? リラはこんなにいい匂いなのにね」
「ありがとうございます」
……香水は高価だ。持っていた事も、着けたこともない。
私には、女性達のお化粧や香水の匂いは、甘くていい匂いに感じたけれど、嗅覚が鋭い獣人にとっては強い匂いなのかも知れない。
ただ、ラビー姉様達は私をいい匂いと言ってくれるけど、やっぱり自分では分からない。
どんな匂いなんだろうと、クンクンと体を匂っていると、それを見ていた皆が笑った。
それからは、できる限りリフテス人と関わらないように過ごした。
けれどマフガルドの馬は大きく、地味な装いにしていても彼等は容姿端麗、生まれながらの王子、公爵令嬢、令息なのだ。立ち居振る舞いも気品がある。メイナード様は何故かキラキラ輝いて見える。本人達の意思とは関係なく、どうしても目立つ。
だから移動中、彼等は目深に帽子を被り、地味な色味のコートを羽織るようにし、なるべく立ち止まらず、休憩は人気のない場所まで進みとるようにした。
その日の夜遅く、町外れの小さな宿に入った。
私とラビー姉様が部屋に入ると、シリル様がこの鍵では信用ならないと扉に防御魔法をかけた。
それは、知らない者が扉に触れると弾き飛ばされる、という強力なものだった。
◇
シリル達は、リラとラビーの部屋の隣の部屋へと入った。
部屋に入るなり、メイナードは
「ごめん、悪いけど先にお風呂に入らせて。僕この匂い無理」
そう言って、浴室へと向かった。
メイナードはレストランで、かなりベタベタと触られていた。そこまで嫌悪している様には見えなかったが、我慢していただけのようだ。
その後でルシファが、最後にシリルが浴室へと向かった。
風呂場で、シリルは後ろに流し固めていた髪を入念に洗いながら考えていた。
ルシファの魔法により、獣耳と尻尾のない姿となったシリル。
彼は非常に困惑していた。
今までは、何をせずとも怖がられ、目を背けられる事ばかりだった。ところが、獣耳と尻尾がなくなり、髪形を変えた途端に女性から好意のある目で見られ、声を掛けられるようになったのだ。
ーーーー慣れない。
何が変わったというのだろうか?
変わった……のだろうか?
……そういえば、リラも様子が変わっていた。
今朝、ラビーに防御魔法をかけていた時、急にリラが思い詰めたような顔をした為、つい頬に手を添えた。
するとリラが、袖をギュッと握り甘く見つめてきたのだ。
それはまるで俺を求める様な目だった。
つい顔を寄せキスをしそうになったが……。
あの時、ルシファが声を掛けなければ、ニヤニヤと笑うラビーとメイナードに見られて、初めてのキスをするところだった。
……見られながらキスをするのは嫌だ。
それに、この仮の姿では……。
はっ、そんな事はどうでもいい、嫌、よくもないが。
どうやら、獣耳と尻尾が無く髪をまとめている俺は、リフテスの女性に好かれるらしい。
女性から話しかけられる事に慣れていない俺は、つい言葉を返していたのだが、間違えていたようだ。
ルシファのように、話をしたくなければ上手くあしらわなければならなかった。
何故なら、この国に入ってからリラがとても寂しそうな表情をするようになったのだ。
笑みを浮かべているのに、哀しそうで不安げな表情が垣間見える。
その表情を見せるのは、俺が他の女性と話をしている時だ。
もしかして、俺が女性と話をするのが嫌?
それは……嫉妬ではないのか?
もしかしたら、違うことが心にあるのかも知れない。
この考えは、俺の自惚れでしかない。
……けれど、もしそうなら。
君の心の中を確かめたい……そう思っても、今の俺には尻尾がない。
いや、いつまでも尻尾に頼る訳にもいかないが……。
リラ……。
俺は、君意外はなんとも思わない。
この国の女性は獣人女性より小柄だ。可愛らしい女性も確かにいる。
だが、君といる時のような気持ちにはならないんだ。
愛しいと、側にいたいと焦がれる気持ちは、君にしか湧いてこない。
……だから、そんな顔をしないで欲しい。
そんな不安そうな顔をしないで欲しい。
シリルは、宿の小さな湯船に膝を曲げて入り小さくため息を吐いた。
◇
メイナードは、ベッドに寝ながらすべてを聞いていた。
……シリルは口に出しているつもりはないんだろう。
うーん、もしかすると、聞こえていないと思って口に出しているのかな?
残念だけど僕には全部聞こえているんだよね。
両思いなんだからリラ様に直接伝えればいいだけなのに、シリルはそれが出来ないからなぁ。
……何か、他にも僕が手伝える事があるかなぁ?
カチャリと扉が開き、シリルが部屋へと戻ってくる。
メイナードはいつものように指をクルクル回し、赤く光る輪っかを作りシリルの髪へと飛ばす。
フワリと髪が乾き、シリルがメイナードへお礼を述べた。
シリルはメイナードより歳上なのに、命令したり横柄な態度はとった事がない。
だから僕はシリルが好きだし、構いたくなるんだよなぁ……眠りながらメイナードは思っていた。