ハズレの姫は、獣人王子様から愛されたい〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜
大切な話
母さんが、時を止める魔法から目覚めたその夜、私は城の執務室へと呼ばれた。
騎士に案内され、向かったそこに待っていたのは、アレクサンドルお父様とシェバリエ宰相。
お父様は昼間、母さんと一緒に城に戻ると、すぐに執務室に入り政務を行いはじめた。
シェバリエ宰相は騎士達と共に朝早くから、あちらこちらに出かけ、すごく忙しくしていた。
そんな二人が、何やら急いで話さなければいけない事があると言う。
それほど広くない執務室の中には、あの宿で見た丸い明かりが幾つも灯されていた。
机の上にはたくさんの書類が置いてある。
「それでは」
シェバリエ宰相が話を始めようとするのを、ちょっと待って下さいと止めて、私はお父様の前に立ち頭を下げた。
「リラ⁈ どうしたの?」
「お父様、ごめんなさい」
「なぜ謝るの? リラは何もしていないよ?」
顔を上げ、お父様の私と同じ紺と金の混じる瞳を見つめる。同じ瞳なのに、お父様の瞳は潤んでいて、輝きを放ちとても美しい。
「お父様が操られていた時、私は酷い言葉を言ってしまいました。ごめんなさい」
謝らなければいけない、そう思っていた。
お父様は首を横に振る。一つに結われた黄金の髪がサラリと揺れた。
「あの日の事は覚えている。リラは悪くない、私があんな者に操られてしまう様な、弱い人間だった事がいけないんだ。それに、酷い言葉を言ったのは私も同じだよ。だからどうか謝らないで欲しい」
優しい声でそう話すお父様。
「でも、私」
謝りあう私達の間に「全ては私の責任です」と、シェバリエ宰相まで入り謝りだした。
「私達は謝ってばかりだな」
苦笑いをしたお父様に、シュバリエ宰相がまた謝った。
「この話は終わりにしよう。シュバリエ宰相、リラにあの話をしなければならない」
「……そうでした」
宰相に勧められ執務室の椅子に座ると、前の椅子にお父様が腰をかけた。
シェバリエ宰相は立ったまま「それでは」と姿勢を正し、真剣な目を私に向け……すぐに逸らした。
(…………?)
何度も咳払いをしては、私をチラチラと見る。
そんなに言いにくい話なの?……ちょっと不安になってきた。
「……リラ様、単刀直入に申し上げます。貴方様はこの国の第一王女となられます」
「はい」
ん? 急ぎの話はこの事?
それはさっき、メリーナから聞いた。
私以外の王子様、王女様達は全てあの白い男の子供達だったと。
(だからニコくんの糸は伸びなかったんだ……)
お父様と血の繋がりがある、リフテスの瞳を持つ子供は私一人しかいないという事。
「これから話す事は、王族として、知って置いて貰わねばなりません」
「はい」
私が返事をすると、お父様と宰相は頷いた。
「あの女、ジョゼフィーヌはリフテス王国を謀った罪人です。しかし、残念ながらあの者とアレクサンドル様の婚姻は正式な物として誓約が結ばれており、その事は王族の記録書に残されています。王族の記録書に一度書き示した事柄は、消す事は許されないのです。よって、リフテス王族に黒歴史を刻む事になってしまいました」
宰相は何か嫌な事を思い出したように、拳を握りワナワナと震わせていた。
「実は、慣例となっていた側室ですが、それが記されていた書物もまた、偽物だったと分かりました。リフテス王族は代々一夫一妻、側室などあり得なかったのです。全てはデフライト公爵とあの者達によって仕組まれた事でした。なぜあんな物を信じて疑わなかったのか……宰相である私の力のなさが、アレクサンドル様に、辛い思いをさせる結果となってしまいました」
シェバリエ宰相はお父様に深謝した。
「シェバリエ宰相、全て終わった事だよ。気にする事はない」
お父様が笑顔を見せると、宰相は深々と頭を下げた後、また話を続けた。
「側室は全て撤廃する事となりました」
シェバリエ宰相は、マーガレット様以外、誰一人として生きていませんが……と呟いた。
側室制度も嘘だったなんて……。
でも、側室制度があったから母さんはお父様と一緒になれた訳で……。
ううん、違う。
二人は深く運命で繋がっていると、メリーナは言っていた。
もし、前リフテス王が生きていたら、また違っていたかも知れないけれど
それでもお父様は母さんと出会い、二人は恋に落ちて、結婚をして、私は生まれてきたのだろう。
そして、私はリフテス王国の王女として……マフガルド王国に住むメリーナや、シリル王子様と出会えていたかもしれない。
「そこで、側室のお一人であった、マーガレット様のお話になります」
母さんの事?
はっ、そうだ。側室が無くなるという事は、母さんは……どうなるの?
私の顔色を見て考えている事が分かったのか、シェバリエ宰相が笑った。
(……私、そんなに分かりやすいですか?)
「マーガレット様は、正統なるリフテス王のお子を成されており、ご寵愛も受けておられます。
アレクサンドル様も、マーガレット様以外の方を愛する事はあり得ないと仰られております」
お父様は頷き、優しく微笑む。
「マーガレット様をすぐに王妃へ、と思いましたが、平民から王妃へと成すのはこの国の法の上では難しく……これまで王妃となられた方々は、偶々ではございますが、貴族の方ばかりで……どうすべきか考えました」
「私は、法を変えてしまえばいいと言ったんだけどね」
美しい笑みを浮かべ話すお父様に、シェバリエ宰相はいいえ、と首を横に振った。
「法を変えるのは簡単な事ではございません。法の改訂には臣下の証印が必要となりますが、今、この国は臣下の半分以上がいない状態なのです。臣下は、まぁ後日選任するとしても、はっ! 貴族も少なくなっているのだ…………ああ、話がそれてしまいました。とにかく、私はマーガレット様に王妃様になっていただける、いい方法を思いついたのです!」
シェバリエ宰相はパチパチと手を叩く。
「……はい?」
「マーガレット様は私、シェバリエ公爵家の養女となり、その後王妃様へとなられる事が決定いたしました」
宰相は両手を広げ天を仰いだ。
お父様も、急にそんな動きをした宰相を目を丸くして見ている。
「我がシェバリエ公爵家から、王妃を出すことになろうとは! なんとめでたい!」
……面白い方なのかなぁ……?
国の仕組みや決まり事はまだよく分からないけれど、母さんが幸せになるならそれでいい。
そう思って返事をした。
「はい、分かりました」
すると、シェバリエ宰相は急にシュンと肩をすくめた。
「……それで、申し訳ないのですが、リラ様はリフテスの瞳を持つお方です。……その、残念ながら、アレクサンドル様とマーガレット様には、もうお子が成されることはありません。アレクサンドル様は長きに渡る薬の影響があり、マーガレット様も一度体の時を止められた為、お子は望めぬ体になられているとメリーナ様がお話下さいました。よって、リラ様はリフテス王国の王位継承権を持つ唯一のお方、王太子となられます」
……王太子、私が?
王女とは理解していたけど、いざ世継ぎと言われると、なんだか頭がついていかない。
シェバリエ宰相は声を落とした。
「……ですから、リラ様にマフガルド王国へお嫁に行って頂く事は出来ません」
「え、じゃあ、私は……」
言葉に詰まる私を見て、お父様は目を伏せた。
「すまないが、シリル王子様との結婚の話は、一旦白紙に戻して欲しい。……リラ、シリル王子様はこの話を受けてくれたんだ」
「え……」
(……シリル様が?)
呆然とする私を見て、お父様は目を潤ませ「すまない」と何度も言った。
……お父様のせいじゃない。
誰のせいでもない。
分かっているのに目には涙が滲んでしまう。
先に頬を濡らしたお父様が、もう一つ伝えなければならないと話した。
「リラ、彼らは明日、マフガルド王国へ帰るそうだ」
騎士に案内され、向かったそこに待っていたのは、アレクサンドルお父様とシェバリエ宰相。
お父様は昼間、母さんと一緒に城に戻ると、すぐに執務室に入り政務を行いはじめた。
シェバリエ宰相は騎士達と共に朝早くから、あちらこちらに出かけ、すごく忙しくしていた。
そんな二人が、何やら急いで話さなければいけない事があると言う。
それほど広くない執務室の中には、あの宿で見た丸い明かりが幾つも灯されていた。
机の上にはたくさんの書類が置いてある。
「それでは」
シェバリエ宰相が話を始めようとするのを、ちょっと待って下さいと止めて、私はお父様の前に立ち頭を下げた。
「リラ⁈ どうしたの?」
「お父様、ごめんなさい」
「なぜ謝るの? リラは何もしていないよ?」
顔を上げ、お父様の私と同じ紺と金の混じる瞳を見つめる。同じ瞳なのに、お父様の瞳は潤んでいて、輝きを放ちとても美しい。
「お父様が操られていた時、私は酷い言葉を言ってしまいました。ごめんなさい」
謝らなければいけない、そう思っていた。
お父様は首を横に振る。一つに結われた黄金の髪がサラリと揺れた。
「あの日の事は覚えている。リラは悪くない、私があんな者に操られてしまう様な、弱い人間だった事がいけないんだ。それに、酷い言葉を言ったのは私も同じだよ。だからどうか謝らないで欲しい」
優しい声でそう話すお父様。
「でも、私」
謝りあう私達の間に「全ては私の責任です」と、シェバリエ宰相まで入り謝りだした。
「私達は謝ってばかりだな」
苦笑いをしたお父様に、シュバリエ宰相がまた謝った。
「この話は終わりにしよう。シュバリエ宰相、リラにあの話をしなければならない」
「……そうでした」
宰相に勧められ執務室の椅子に座ると、前の椅子にお父様が腰をかけた。
シェバリエ宰相は立ったまま「それでは」と姿勢を正し、真剣な目を私に向け……すぐに逸らした。
(…………?)
何度も咳払いをしては、私をチラチラと見る。
そんなに言いにくい話なの?……ちょっと不安になってきた。
「……リラ様、単刀直入に申し上げます。貴方様はこの国の第一王女となられます」
「はい」
ん? 急ぎの話はこの事?
それはさっき、メリーナから聞いた。
私以外の王子様、王女様達は全てあの白い男の子供達だったと。
(だからニコくんの糸は伸びなかったんだ……)
お父様と血の繋がりがある、リフテスの瞳を持つ子供は私一人しかいないという事。
「これから話す事は、王族として、知って置いて貰わねばなりません」
「はい」
私が返事をすると、お父様と宰相は頷いた。
「あの女、ジョゼフィーヌはリフテス王国を謀った罪人です。しかし、残念ながらあの者とアレクサンドル様の婚姻は正式な物として誓約が結ばれており、その事は王族の記録書に残されています。王族の記録書に一度書き示した事柄は、消す事は許されないのです。よって、リフテス王族に黒歴史を刻む事になってしまいました」
宰相は何か嫌な事を思い出したように、拳を握りワナワナと震わせていた。
「実は、慣例となっていた側室ですが、それが記されていた書物もまた、偽物だったと分かりました。リフテス王族は代々一夫一妻、側室などあり得なかったのです。全てはデフライト公爵とあの者達によって仕組まれた事でした。なぜあんな物を信じて疑わなかったのか……宰相である私の力のなさが、アレクサンドル様に、辛い思いをさせる結果となってしまいました」
シェバリエ宰相はお父様に深謝した。
「シェバリエ宰相、全て終わった事だよ。気にする事はない」
お父様が笑顔を見せると、宰相は深々と頭を下げた後、また話を続けた。
「側室は全て撤廃する事となりました」
シェバリエ宰相は、マーガレット様以外、誰一人として生きていませんが……と呟いた。
側室制度も嘘だったなんて……。
でも、側室制度があったから母さんはお父様と一緒になれた訳で……。
ううん、違う。
二人は深く運命で繋がっていると、メリーナは言っていた。
もし、前リフテス王が生きていたら、また違っていたかも知れないけれど
それでもお父様は母さんと出会い、二人は恋に落ちて、結婚をして、私は生まれてきたのだろう。
そして、私はリフテス王国の王女として……マフガルド王国に住むメリーナや、シリル王子様と出会えていたかもしれない。
「そこで、側室のお一人であった、マーガレット様のお話になります」
母さんの事?
はっ、そうだ。側室が無くなるという事は、母さんは……どうなるの?
私の顔色を見て考えている事が分かったのか、シェバリエ宰相が笑った。
(……私、そんなに分かりやすいですか?)
「マーガレット様は、正統なるリフテス王のお子を成されており、ご寵愛も受けておられます。
アレクサンドル様も、マーガレット様以外の方を愛する事はあり得ないと仰られております」
お父様は頷き、優しく微笑む。
「マーガレット様をすぐに王妃へ、と思いましたが、平民から王妃へと成すのはこの国の法の上では難しく……これまで王妃となられた方々は、偶々ではございますが、貴族の方ばかりで……どうすべきか考えました」
「私は、法を変えてしまえばいいと言ったんだけどね」
美しい笑みを浮かべ話すお父様に、シェバリエ宰相はいいえ、と首を横に振った。
「法を変えるのは簡単な事ではございません。法の改訂には臣下の証印が必要となりますが、今、この国は臣下の半分以上がいない状態なのです。臣下は、まぁ後日選任するとしても、はっ! 貴族も少なくなっているのだ…………ああ、話がそれてしまいました。とにかく、私はマーガレット様に王妃様になっていただける、いい方法を思いついたのです!」
シェバリエ宰相はパチパチと手を叩く。
「……はい?」
「マーガレット様は私、シェバリエ公爵家の養女となり、その後王妃様へとなられる事が決定いたしました」
宰相は両手を広げ天を仰いだ。
お父様も、急にそんな動きをした宰相を目を丸くして見ている。
「我がシェバリエ公爵家から、王妃を出すことになろうとは! なんとめでたい!」
……面白い方なのかなぁ……?
国の仕組みや決まり事はまだよく分からないけれど、母さんが幸せになるならそれでいい。
そう思って返事をした。
「はい、分かりました」
すると、シェバリエ宰相は急にシュンと肩をすくめた。
「……それで、申し訳ないのですが、リラ様はリフテスの瞳を持つお方です。……その、残念ながら、アレクサンドル様とマーガレット様には、もうお子が成されることはありません。アレクサンドル様は長きに渡る薬の影響があり、マーガレット様も一度体の時を止められた為、お子は望めぬ体になられているとメリーナ様がお話下さいました。よって、リラ様はリフテス王国の王位継承権を持つ唯一のお方、王太子となられます」
……王太子、私が?
王女とは理解していたけど、いざ世継ぎと言われると、なんだか頭がついていかない。
シェバリエ宰相は声を落とした。
「……ですから、リラ様にマフガルド王国へお嫁に行って頂く事は出来ません」
「え、じゃあ、私は……」
言葉に詰まる私を見て、お父様は目を伏せた。
「すまないが、シリル王子様との結婚の話は、一旦白紙に戻して欲しい。……リラ、シリル王子様はこの話を受けてくれたんだ」
「え……」
(……シリル様が?)
呆然とする私を見て、お父様は目を潤ませ「すまない」と何度も言った。
……お父様のせいじゃない。
誰のせいでもない。
分かっているのに目には涙が滲んでしまう。
先に頬を濡らしたお父様が、もう一つ伝えなければならないと話した。
「リラ、彼らは明日、マフガルド王国へ帰るそうだ」