ハズレの姫は、獣人王子様から愛されたい〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜
ハズレの王子様
リフテス王国を出て七日目の昼過ぎに、シリル達は、マフガルド城へ辿り着いた。
城の門をくぐり、城内に入ると直ぐに、メリーナは封印を解く呪文を早口で唱え始めた。
メリーナは、とにかく急いで封印を解いて、リフテス王国へ帰ろうと考えていた。
その為にここまで馬車の中で、シリルがまだ知らずにいて使えない魔法を、それはもう厳しく教えた。
その様子を見ていた白い男が『漆黒の者が、そんな魔法も知らないのか』とせせら笑いながら言う度に、シリルが怒り出し中々進まなかったが……それでも、一通り教えて来たのだ。
メリーナの封印を解く呪文が響きわたる城の中からは、大勢の呻き声が聞こえる。
メリーナは少しだけ疑問に思っていた。
(なぜ皆呻き声を上げるの? 封印が解けるのって苦しいのかしら?)
メリーナは知らない。
封印を解く事がかなりの苦痛を与えることを。
目は回り、頭も体も痛くなるのだ。
ただでさえ痛みを伴うその呪文を、メリーナは予告もなく早口で唱えている。城の中の者達は、突然襲って来た苦しみに、怯え悶えているのだ。
その事が分かるシリル達は、城の者達を気の毒に思った。
メリーナは勝手知ったる城の中をツカツカと歩き、大広間へと向かった。
その後ろをシリル達は、あの白い男入りの箱と組織の者達を連れ、ついて行く。
城中から聞こえていた呻き声が収まると、メリーナの前にマフガルド王国、国王ゼビオスが現れた。
「メリーナ……今までどこに行っていたんだ?」
「開口一番がそれなの?」
全ての封印が解かれた事で、皆の中から忘れられていたメリーナの記憶も蘇っていた。
大広間にはメリーナの帰城に気づいた大勢の者が、駆け付けて来る。
皆は、突然城を出て居なくなったメリーナが戻って来た事を喜び(彼等の記憶ではそうなっている様だ)箱に入った『白い男』を見て、その異質さに慄いた。
メリーナは周りを見て、無事に封印が解けた事を確認すると
「じゃあ、私はリラの元へ帰るから。シリルは頑張りなさい」
そう言って踵を返し立ち去ろうとする。
「ちょっ、もう少しだけ待って下さい」
慌ててメリーナを引き止めたシリルは、リフテス王から預かって来た書状をゼビオス王に渡すと、これまでリフテス王国で起きていた事と、リラが世継ぎになった事、そして自分はリフテス王国へ行き、リラと結婚したいのだという気持ちを伝えた。
書状を読みながらシリルの話を聞いていたゼビオス王の表情は、決していいものではなかった。
「無理矢理寄越した王女を返せ? その上シリルを寄越せだと⁈」
ゼビオス王の低く唸るような声に、広間の空気がビリビリと振動する。
「違う、リフテス王は嘆願している。それに俺は自分の意思で行きたいんだ」
シリルの言葉にゼビオス王は牙を見せた。
「はっ、こんな物、誰が書いたのか分かったものではない。お前は、私はリフテス王は嫌いだと言っていたのを忘れたのか? まだ、書状しか渡しておらぬ段階で、もうすでに王女を返してもらったつもりでいるのだろう? その証拠にリラはここに居らぬではないか!」
声を荒げるゼビオス王に、シリルは穏やかな声色で話す。
「リラは一緒に来たいと言ったが、俺達が置いてきた。彼女はリフテス王国の世継ぎだから」
必死に話すシリルを、ゼビオス王は鋭い目で見ていた。
「どうだかな……もうよい。まだ正式に婚姻を結んではいないからな。だがな、シリル、お前がリフテスに行き、王女と結婚する事は許さん。リラは所詮クジで決めたハズレの姫だ、忘れろ」
冷たく言い放ったゼビオス王は、話は終わりだと書状を投げ捨てようとした。
「忘れるなんて出来る訳がない! 俺の相手はリラだけだ!」
「お前は彼女しか知らないから、そう思っているに過ぎない」
「そんな事ない、父上だって分かっているだろう?」
「さあな」
「父上!」
シリルとゼビオス王のやり取りを、つまらなそうに見ていたメリーナは、
「私はリフテスへ帰るわ」
と言って、今度こそ広間を出て行こうとする。
「ならん!」
ゼビオス王は大広間の扉へと手を向けた。
バンッと激しく音を立て閉められた扉には、ガチャリと鍵が掛けられた。
メリーナは冷ややかな目を、頭の固いゼビオス王に向ける。
「ゼビオス王、私は長い間リフテス王国でリラと共に暮らして来たの。私にとってあの子は娘、大切な家族なの」
「ならば、この国へ連れ帰ればよかっただろう」
「ダメよ、あの子は世継ぎだと言っているでしょう?」
「そんなものは私には関係がない」
「関係ない? だったら私の事も放って置いて。こんな風に扉に鍵までかけて、無理矢理閉じ込めるようなことをするなんて、あなたはそんな人だったの?」
メリーナがどんなに話して聞かせても、ゼビオス王はリフテス王国へ行くことを許さなかった。
長きに渡るリフテス王国との争いと、世に知れるリフテス王の悪名がゼビオス王の心を固くしていた。
ルシファやラビー、メイナードも一緒になって話すが、ゼビオス王は聞く耳を持たない。
大広間の話し合いは、日が暮れるまで続いた。
ーーと、それまでずっと大広間の片隅に放置されていた白い男が、呆れた様にため息を吐く。
『それほど言うのなら、ゼビオス王お前がリフテス王国へ行き、この者達が話す事柄が真実か確かめて来ればよい』
「何だと?」
『見てもおらぬ事を先程からぐだぐだと、お前は小さい男だな。ああ……あのリフテス王が怖いのだな』
「ーーなっ⁉︎」
静まり返る広間に、『クラッシュ』の者達の後ろ手にされたまま『神』に送られた称賛の拍手の音が響いた。
ゼビオス王はチッと舌打ちをする。
城の者達は一言も話さず傍観していた。
バサッと不機嫌に尻尾を叩き「あちらが出向いてくるべきだ」と話すゼビオス王に、メリーナは伝える。
「無理よ、アレクサンドル様もマーガレットもまだ、長旅ができる体では無いわ」
『それに、リフテス城の馬車は全てこちらにあるからな』
白い男は楽しげに話に加わってきた。
メリーナはそれに乗る。
「そうよ、私達の為に全ての馬車を出してくれたのよ、もうあちら側には古い幌馬車しか残っていないわ」
城の者達は、あまりにも子供じみた態度をとるゼビオス王に、冷ややかな視線を向けていた。
「…………」
冷たい視線を感じとったゼビオス王は、バサバサッと尻尾を振り、分かったと告げる。
「そこまで言うのなら、こちらから出向いてやる。私と王妃、それから王子を一人連れリフテス王国へ行って見てこよう。この目で確かめて、それでも気に食わなければ、シリルお前は他の令嬢と結婚させる」
「なっ……」
動揺するシリルをゼビオス王は冷たく見つめる。
「シリル、お前ははじめて自分に好意を向けられ、それを恋だ、愛だと思っているに過ぎない。例えリラが『宿命』の相手であろうと、他に少しでも『運命』の繋がる令嬢と結婚し番えば、お前は簡単に忘れるだろう」
「そんな事はない!」
言い切ったシリルをゼビオス王は鼻で笑った。
「所詮は、リラの魅力にとりつかれているだけだ。今まで向けられなかった好意を寄せられ、その子がたまたま可愛くたまらなく良い匂いがして、庇護欲をそそられているだけだろう」
「……なっ!」
何を言っても話にならないゼビオス王に、シリルは言葉を失った。
ゼビオス王の黄金の目が冷たくシリルを見る。
「リフテス王国へ同行する王子は『クジ』で選ぶ」
そう言い残し、ゼビオス王は大広間を後にした。
「鍵ぐらい開けて行きなさいよーっ!」
転移魔法でいなくなったゼビオス王に向け、メリーナ様が文句を言っていた。
その横で、シリルは唇を噛んでうつむいていた。
◇
ゼビオス王は、すぐにクジを準備した。
シンディ王妃が「私が魔法をかけておいたの、五回引き、一番多く当たりを引いた者をリフテス王国へ連れて行くわ」と言うと、ゼビオス王が「当たりではない、ハズレだ」と低い声で告げた。
「そうだな、リフテス王国になど行きたいと思わない」
長兄カイザーがつまらなそうに言うと、ディオも「僕も、何をするか分からないような国は嫌だ」と嫌な顔をする。
「そう? 僕は興味あるけどなぁ」
第八王子ハリアはニコニコと笑みを浮かべた。
王子達のほとんどは、リラの事は嫌いではないが、まだ人を嫌っている。
リフテス王国へ行きたい者、行きたくない者、興味はある者、どうでもいい者、それぞれが思いを込めクジを選んだ。
王子達は、一斉に引き抜いた。
最初に印の付いたクジを引いたのはシリルだった。
だが、二回目は第四王子ノルディ。
「……まさか、私が行く事になるとは……」
印の付いたクジを持ち、唖然とする第一王子カイザー。
残り三回の『ハズレ』はカイザーが引き当てたのだ。
「あら、カイザーが引いたのね……そう」
結果を見たシンディ王妃は、少し驚いた様な納得した様な顔をしていた。
王子が決まった翌朝、マフガルド王国からリフテス王国へ、ゼビオス王とシンディ王妃、カイザー王子が乗った馬車と、数台のリフテスの馬車が旅立った。
ゼビオス王と王妃だけであれば、転移魔法で行けない事もなかったが、数台の馬車を転移させるのはさすがの王でも、面倒だった。
ついでに、普段あまり通ることのない場所を見る機会だと三人は馬車に乗り、のんびりとリフテス王国へと向かった。
◇
それから八日後、リフテス城に着いたゼビオス王達は、突然訪問したにも関わらず、大歓迎を受けた。
そして通された広間で、マフガルド王国から訪れた三人は……。
激しく尻尾を振る事になる。
城の門をくぐり、城内に入ると直ぐに、メリーナは封印を解く呪文を早口で唱え始めた。
メリーナは、とにかく急いで封印を解いて、リフテス王国へ帰ろうと考えていた。
その為にここまで馬車の中で、シリルがまだ知らずにいて使えない魔法を、それはもう厳しく教えた。
その様子を見ていた白い男が『漆黒の者が、そんな魔法も知らないのか』とせせら笑いながら言う度に、シリルが怒り出し中々進まなかったが……それでも、一通り教えて来たのだ。
メリーナの封印を解く呪文が響きわたる城の中からは、大勢の呻き声が聞こえる。
メリーナは少しだけ疑問に思っていた。
(なぜ皆呻き声を上げるの? 封印が解けるのって苦しいのかしら?)
メリーナは知らない。
封印を解く事がかなりの苦痛を与えることを。
目は回り、頭も体も痛くなるのだ。
ただでさえ痛みを伴うその呪文を、メリーナは予告もなく早口で唱えている。城の中の者達は、突然襲って来た苦しみに、怯え悶えているのだ。
その事が分かるシリル達は、城の者達を気の毒に思った。
メリーナは勝手知ったる城の中をツカツカと歩き、大広間へと向かった。
その後ろをシリル達は、あの白い男入りの箱と組織の者達を連れ、ついて行く。
城中から聞こえていた呻き声が収まると、メリーナの前にマフガルド王国、国王ゼビオスが現れた。
「メリーナ……今までどこに行っていたんだ?」
「開口一番がそれなの?」
全ての封印が解かれた事で、皆の中から忘れられていたメリーナの記憶も蘇っていた。
大広間にはメリーナの帰城に気づいた大勢の者が、駆け付けて来る。
皆は、突然城を出て居なくなったメリーナが戻って来た事を喜び(彼等の記憶ではそうなっている様だ)箱に入った『白い男』を見て、その異質さに慄いた。
メリーナは周りを見て、無事に封印が解けた事を確認すると
「じゃあ、私はリラの元へ帰るから。シリルは頑張りなさい」
そう言って踵を返し立ち去ろうとする。
「ちょっ、もう少しだけ待って下さい」
慌ててメリーナを引き止めたシリルは、リフテス王から預かって来た書状をゼビオス王に渡すと、これまでリフテス王国で起きていた事と、リラが世継ぎになった事、そして自分はリフテス王国へ行き、リラと結婚したいのだという気持ちを伝えた。
書状を読みながらシリルの話を聞いていたゼビオス王の表情は、決していいものではなかった。
「無理矢理寄越した王女を返せ? その上シリルを寄越せだと⁈」
ゼビオス王の低く唸るような声に、広間の空気がビリビリと振動する。
「違う、リフテス王は嘆願している。それに俺は自分の意思で行きたいんだ」
シリルの言葉にゼビオス王は牙を見せた。
「はっ、こんな物、誰が書いたのか分かったものではない。お前は、私はリフテス王は嫌いだと言っていたのを忘れたのか? まだ、書状しか渡しておらぬ段階で、もうすでに王女を返してもらったつもりでいるのだろう? その証拠にリラはここに居らぬではないか!」
声を荒げるゼビオス王に、シリルは穏やかな声色で話す。
「リラは一緒に来たいと言ったが、俺達が置いてきた。彼女はリフテス王国の世継ぎだから」
必死に話すシリルを、ゼビオス王は鋭い目で見ていた。
「どうだかな……もうよい。まだ正式に婚姻を結んではいないからな。だがな、シリル、お前がリフテスに行き、王女と結婚する事は許さん。リラは所詮クジで決めたハズレの姫だ、忘れろ」
冷たく言い放ったゼビオス王は、話は終わりだと書状を投げ捨てようとした。
「忘れるなんて出来る訳がない! 俺の相手はリラだけだ!」
「お前は彼女しか知らないから、そう思っているに過ぎない」
「そんな事ない、父上だって分かっているだろう?」
「さあな」
「父上!」
シリルとゼビオス王のやり取りを、つまらなそうに見ていたメリーナは、
「私はリフテスへ帰るわ」
と言って、今度こそ広間を出て行こうとする。
「ならん!」
ゼビオス王は大広間の扉へと手を向けた。
バンッと激しく音を立て閉められた扉には、ガチャリと鍵が掛けられた。
メリーナは冷ややかな目を、頭の固いゼビオス王に向ける。
「ゼビオス王、私は長い間リフテス王国でリラと共に暮らして来たの。私にとってあの子は娘、大切な家族なの」
「ならば、この国へ連れ帰ればよかっただろう」
「ダメよ、あの子は世継ぎだと言っているでしょう?」
「そんなものは私には関係がない」
「関係ない? だったら私の事も放って置いて。こんな風に扉に鍵までかけて、無理矢理閉じ込めるようなことをするなんて、あなたはそんな人だったの?」
メリーナがどんなに話して聞かせても、ゼビオス王はリフテス王国へ行くことを許さなかった。
長きに渡るリフテス王国との争いと、世に知れるリフテス王の悪名がゼビオス王の心を固くしていた。
ルシファやラビー、メイナードも一緒になって話すが、ゼビオス王は聞く耳を持たない。
大広間の話し合いは、日が暮れるまで続いた。
ーーと、それまでずっと大広間の片隅に放置されていた白い男が、呆れた様にため息を吐く。
『それほど言うのなら、ゼビオス王お前がリフテス王国へ行き、この者達が話す事柄が真実か確かめて来ればよい』
「何だと?」
『見てもおらぬ事を先程からぐだぐだと、お前は小さい男だな。ああ……あのリフテス王が怖いのだな』
「ーーなっ⁉︎」
静まり返る広間に、『クラッシュ』の者達の後ろ手にされたまま『神』に送られた称賛の拍手の音が響いた。
ゼビオス王はチッと舌打ちをする。
城の者達は一言も話さず傍観していた。
バサッと不機嫌に尻尾を叩き「あちらが出向いてくるべきだ」と話すゼビオス王に、メリーナは伝える。
「無理よ、アレクサンドル様もマーガレットもまだ、長旅ができる体では無いわ」
『それに、リフテス城の馬車は全てこちらにあるからな』
白い男は楽しげに話に加わってきた。
メリーナはそれに乗る。
「そうよ、私達の為に全ての馬車を出してくれたのよ、もうあちら側には古い幌馬車しか残っていないわ」
城の者達は、あまりにも子供じみた態度をとるゼビオス王に、冷ややかな視線を向けていた。
「…………」
冷たい視線を感じとったゼビオス王は、バサバサッと尻尾を振り、分かったと告げる。
「そこまで言うのなら、こちらから出向いてやる。私と王妃、それから王子を一人連れリフテス王国へ行って見てこよう。この目で確かめて、それでも気に食わなければ、シリルお前は他の令嬢と結婚させる」
「なっ……」
動揺するシリルをゼビオス王は冷たく見つめる。
「シリル、お前ははじめて自分に好意を向けられ、それを恋だ、愛だと思っているに過ぎない。例えリラが『宿命』の相手であろうと、他に少しでも『運命』の繋がる令嬢と結婚し番えば、お前は簡単に忘れるだろう」
「そんな事はない!」
言い切ったシリルをゼビオス王は鼻で笑った。
「所詮は、リラの魅力にとりつかれているだけだ。今まで向けられなかった好意を寄せられ、その子がたまたま可愛くたまらなく良い匂いがして、庇護欲をそそられているだけだろう」
「……なっ!」
何を言っても話にならないゼビオス王に、シリルは言葉を失った。
ゼビオス王の黄金の目が冷たくシリルを見る。
「リフテス王国へ同行する王子は『クジ』で選ぶ」
そう言い残し、ゼビオス王は大広間を後にした。
「鍵ぐらい開けて行きなさいよーっ!」
転移魔法でいなくなったゼビオス王に向け、メリーナ様が文句を言っていた。
その横で、シリルは唇を噛んでうつむいていた。
◇
ゼビオス王は、すぐにクジを準備した。
シンディ王妃が「私が魔法をかけておいたの、五回引き、一番多く当たりを引いた者をリフテス王国へ連れて行くわ」と言うと、ゼビオス王が「当たりではない、ハズレだ」と低い声で告げた。
「そうだな、リフテス王国になど行きたいと思わない」
長兄カイザーがつまらなそうに言うと、ディオも「僕も、何をするか分からないような国は嫌だ」と嫌な顔をする。
「そう? 僕は興味あるけどなぁ」
第八王子ハリアはニコニコと笑みを浮かべた。
王子達のほとんどは、リラの事は嫌いではないが、まだ人を嫌っている。
リフテス王国へ行きたい者、行きたくない者、興味はある者、どうでもいい者、それぞれが思いを込めクジを選んだ。
王子達は、一斉に引き抜いた。
最初に印の付いたクジを引いたのはシリルだった。
だが、二回目は第四王子ノルディ。
「……まさか、私が行く事になるとは……」
印の付いたクジを持ち、唖然とする第一王子カイザー。
残り三回の『ハズレ』はカイザーが引き当てたのだ。
「あら、カイザーが引いたのね……そう」
結果を見たシンディ王妃は、少し驚いた様な納得した様な顔をしていた。
王子が決まった翌朝、マフガルド王国からリフテス王国へ、ゼビオス王とシンディ王妃、カイザー王子が乗った馬車と、数台のリフテスの馬車が旅立った。
ゼビオス王と王妃だけであれば、転移魔法で行けない事もなかったが、数台の馬車を転移させるのはさすがの王でも、面倒だった。
ついでに、普段あまり通ることのない場所を見る機会だと三人は馬車に乗り、のんびりとリフテス王国へと向かった。
◇
それから八日後、リフテス城に着いたゼビオス王達は、突然訪問したにも関わらず、大歓迎を受けた。
そして通された広間で、マフガルド王国から訪れた三人は……。
激しく尻尾を振る事になる。