ハズレの姫は、獣人王子様から愛されたい〜もしかして、もふもふに触れる私の心の声は聞こえていますか?〜
番のリング
トントン
お茶を飲みながら、モリーさんと話をしていると、扉が優しく叩かれた。
不審な顔で扉の方に目を向けたモリーさんだが、すぐにニッコリと笑顔になった。
「エリザベート様、ラビー様がいらっしゃいました、お通ししても宜しいですか?」
「は、はい」
ラビー様、私に服を貸してくださっている人。
モリーさんの様子から、彼女はいい人なのだろう。けど、扉を見ただけでどうして分かるの?
……モリーさん……もしかして、透視もできるの?
「おじゃましまーす」
陽気な感じで入ってきたラビー様は、とても背の高い麗しい人だった。
スラリとした体、小さなお顔。ピンク色の髪から、ピョコンと白く長い獣耳が出ている。赤い大きな目を、髪の色と同じピンク色のとても長いまつ毛が縁取っていた。
身体に沿った赤い服が凄く色っぽい感じ。
私が男性なら一目で恋しちゃうかも……。
「はじめまして、エリザベート様。私はラビー・ラビッツです。よろしくね」
ラビー様はパチリとウインクをする。
私も慌てて立ち上がり挨拶をした。
「はじめまして、エリザベート・ル・リフテスです。よろしくお願いします」
「うふふっ、本当に私の子供の頃の服がちょうどいいのね、とって置いてよかったわ!」
頭一つ半ほど背が高いラビー様は私を見下ろす様にして笑った。
「どう、シリルとは上手くいきそう? あの人、私と婚約するつもりだったらしいから」
「……はい、たぶん」
そうだ、シリル様はラビー様が好きなんだ。
確か最初に、婚約するつもりだったとモリーさんが言っていた。
私は申し訳なく思い、ラビー様に尋ねた。
「あの、ラビー様は宜しかったのですか? 私がシリル様と結婚する事に決まってしまって……」
「ん? もちろんいいわよ。私が好きなのはシリルじゃないもの。第六王子のルシファなの。だからあの人がハズレを引かなくて良かったって、ホッとしてるのよ」
「……ハズレ」
慌ててラビー様は両手で口を押さえた。
「ちっ、違うわ、当たりよ、あ・た・り! とにかくシリルの事は、なーんとも思っていないから心配なんてしないでね」
「はい……」
(また言われてしまった。ハズレ……)
「今日はね、結婚式で着るドレスの事もあって来たのよ」
ラビー様の家、ラビッツ公爵家はいろいろなお仕事をされているらしい。
「昨日この国に来たばかりで、まだよく分からないだろうけど、シリルとエリザベート様の結婚式はひと月後よ。準備するにはギリギリなの」
「はい」
(結婚式、してくれるんだ……)
「王族の結婚では、代々受け継がれたドレスを着ているからサイズを直すだけなんだけど、エリザベート様は小さいから、新しく作った方が早いかもね。後でシリルに聞いてみるわね、たぶん作るというはずだけど……」
ふふふ、とラビー様は何か思い出した様に笑った。
「そんな……私、少しぐらい大きくても大丈夫です。新しく作るなんて」
「いいのよ、シリルがお金を出すんだから。それより番(つがい)のリングはどうする?」
「つがいのリング?」
「そう、人はしないの? 結婚した二人が指とか首にお揃いの物を着けたりしない?」
「結婚……指輪なら聞いたことがあります」
母さんはしてなかった……もらっていたのかな?
装飾品を着けているところは記憶にない。
「獣人にはね『番』という、ピタリと合う運命の相手がいると言われているの。それに真似て『番のリング』を着けるのよ」
手をかかげ指を見ながら話すラビー様。
「もしかして、シリル様はラビー様の番だったのですか!」
「何でそうなるの⁈ 私が好きなのはルシファだって言ったじゃない。それに『運命の番』は結婚した相手のことよ」
「結婚相手……?」
「だって結婚したんでしょ? その人が番よ」
「えっ、でもお見合いとか、政略結婚……とか(私達みたいに)無理な結婚だったら」
「あのね、エリザベート様。それも一つの運命的な出会いなの。だって会うべくして出会ったんだもの」
どんな出会いでも、出会った人が運命の番……。
だったら、シリル様は私の運命の番ということ?
ラビー様は、ガバッと両手を広げるとまるで舞台女優の様に叫んだ。
「私もそう、たまたまラビッツ公爵家に生まれて、すぐ近くにルシファがいた。これこそ運命よっ!」
「シリル様もいましたよね?」
「……シリルもいたけど……あっ!」
「……?」
急に私に向け頭を下げるラビー様。
ふわふわの白い耳がペタンと折れる。
顔を上げると、赤い目が戸惑う様に私を見つめていた。
「私、シリルとキスした事があるの。軽くなんだけど……嫌でしょ? 私達、兎獣人は挨拶みたいな感じで誰とでもすぐにキスするけど、人は違うでしょ?」
軽いキス……それってどんなの?
キスって違いがあるの?
「エリザベート様、だから私の弟には、特に気をつけてね。一番危ないのはメイナードよ、歳は私の一つ下の十九歳。残りの七人はまだ理性があるから大丈夫だと思うけど。とにかく、私と同じ耳を見たら隠れるのよ……あ、匂いでわかっちゃうか……」
「匂い?」
やっぱり、私って臭いの?
不安になり、クンクンと手首を匂ってみるが、自分ではよくわからない。
私の様子を見ていたラビー様はクスクスと笑いだした。
「あのね、エリザベート様は……臭い訳じゃないわ、危険なのよ」
「危険な匂い?」
驚いて目を見開く私。
笑っていたラビー様は、真剣な顔になり目を顰めた。
「……そうね、いろんな意味で危険な匂いよ」
それって……どんな匂い⁈
尋ねようとしたが、ラビー様は話題を変えてしまった。
「番のリングはいろんな物があるけど、エリザベート様はどんな物がいいかしら? 別れない限り付けたままだからあんまり大きくない方がいいと思うけど」
「別れる? 番でも別れるんですか⁈ 」
「どんな物でもいつかは壊れる時が来るでしょ? どんなに運命的に結ばれたってダメになる事はあるわよ。えっ、人は別れないの?」
「いえ、別れることはあります」
「でしょ? 生き物は皆同じね! 心は変わっていくものよ、でも私はずっとルシファが好きなんだけど」
それからラビー様はどんなにルシファ王子様の事が好きかを話しながら、私の体を採寸していった。
ラビー様が指をクルクルと回すと、空中に紙とペンが出てくる。
そのペンは、一人でにサラサラと何かを紙に書いていく。
書かれたそれを、ラビー様が確認して頷くと、紙とペンはパッと消えた。
「……すごい」
「ふふっ、私のラビッツ家はね、元王族なの。だから魔力も強いのよ」
「どうして今は公爵なのですか?」
「ご先祖様はね、自由な人だったの。昔はマフガルド家と一緒に王様をやってたらしいけど、王様って好き勝手出来ないじゃない。あっちは真面目なのよ、それで、王様の仕事は全部マフガルド家に任せたらしいわ」
採寸を済ませたラビー様は、じゃあね! とウインクすると帰って行った。
ラビー様も、充分ご先祖様の気質を受け継いでいる様だ。
……ラビッツ家も元王族……。
ラビー様が部屋を出ると、モリーさんは急いで扉に鍵を掛けていた。
「はあ……そうでした。メイナード様が一番危ないんだった」
「モリーさん、どうしたんですか?」
モリーさんは扉の前をウロウロと歩いている。
「いえね、マフガルド家の王子様達は秩序を守ってくれると思うんです。私もここにいる訳ですし……ただねぇ」
「……はい?」
「メイナード様は手が早い‼︎」
「手が早い?」
「気をつけないとあっという間に孕らせられてしまいます」
「……それは……私もですか?」
「……‼︎ もちろんです! 今一番危険なのはエリザベート様ですよっ!」
「人なのに?」
ほとんどの獣人は『人』を嫌っているとマフガルド王は言っていた。
メイナード様は珍しい獣人なのかしら……?
「メイナード様に関して、種族や見た目は問題ありません。『女性』である、それイコール子作りなのです」
……すごい。
そんな人、近くにいた事がない。……危ない人だ。
獣人って、さっき聞いた『番』だけを愛するのかと思ってた。
でも、私の相手がメイナード様だったらメリーナを助けに行く日も早くなったかも知れない……。
……いや、私には無理だ。
誰にでも手が早い人なんて、まるでリフテス王と同じ。
父親だけど、あの人は嫌い。
母さんを放って置いて、メリーナを人質にとる非情な人だもの。
一日も早く子供を連れてリフテスへ帰り、メリーナを助けたい。
そう思っているけれど、でも……出来ることなら好きな人の子供を生みたい。
考えたら複雑な気持ちになってしまった。
「マフガルド家とラビッツ家は家族も同然なのです。シリル様とラビー様は歳も近く、兄妹の様にお育ちになられましたが、ある日ラビー様がいつもの調子で軽い感じでキスをされ、結婚しよーねと言われて……シリル様は真面目な方ですので、まぁ、勘違いをされてしまって……」
「そ、そうですか」
(随分詳しい……モリーさんは見ていたの?)
「シリル様はそれは清らかなお心をお持ちの青年なんです。決して悪い方ではございません! 背も高く、力も強くその上優しい方なのです」
なぜか必死にシリル様の良いところを話しだすモリーさん。
けれど、無理ですよ、シリル様は私の事嫌いなんですから。
「まだ、一晩しか経っておりませんが、エリザベート様はシリル様をどう思われますか?」
「とても美形な方だと思いますが……」
「まあっ‼︎ 」
「私は嫌われているので……」
「えっ⁈ 」
「結婚はするけど、触ることはないと言われていますし」
「あっ、それは……」
「いえ、せっかく結婚してもらうんです。好きになってもらえる様にがんばってみます。こうして出会えたのも運命のようですから……」
そうじゃないとメリーナを助けられないもの
「まあっ……」
私の本心を知らないモリーさんは、凄く喜んでいた。
お茶を飲みながら、モリーさんと話をしていると、扉が優しく叩かれた。
不審な顔で扉の方に目を向けたモリーさんだが、すぐにニッコリと笑顔になった。
「エリザベート様、ラビー様がいらっしゃいました、お通ししても宜しいですか?」
「は、はい」
ラビー様、私に服を貸してくださっている人。
モリーさんの様子から、彼女はいい人なのだろう。けど、扉を見ただけでどうして分かるの?
……モリーさん……もしかして、透視もできるの?
「おじゃましまーす」
陽気な感じで入ってきたラビー様は、とても背の高い麗しい人だった。
スラリとした体、小さなお顔。ピンク色の髪から、ピョコンと白く長い獣耳が出ている。赤い大きな目を、髪の色と同じピンク色のとても長いまつ毛が縁取っていた。
身体に沿った赤い服が凄く色っぽい感じ。
私が男性なら一目で恋しちゃうかも……。
「はじめまして、エリザベート様。私はラビー・ラビッツです。よろしくね」
ラビー様はパチリとウインクをする。
私も慌てて立ち上がり挨拶をした。
「はじめまして、エリザベート・ル・リフテスです。よろしくお願いします」
「うふふっ、本当に私の子供の頃の服がちょうどいいのね、とって置いてよかったわ!」
頭一つ半ほど背が高いラビー様は私を見下ろす様にして笑った。
「どう、シリルとは上手くいきそう? あの人、私と婚約するつもりだったらしいから」
「……はい、たぶん」
そうだ、シリル様はラビー様が好きなんだ。
確か最初に、婚約するつもりだったとモリーさんが言っていた。
私は申し訳なく思い、ラビー様に尋ねた。
「あの、ラビー様は宜しかったのですか? 私がシリル様と結婚する事に決まってしまって……」
「ん? もちろんいいわよ。私が好きなのはシリルじゃないもの。第六王子のルシファなの。だからあの人がハズレを引かなくて良かったって、ホッとしてるのよ」
「……ハズレ」
慌ててラビー様は両手で口を押さえた。
「ちっ、違うわ、当たりよ、あ・た・り! とにかくシリルの事は、なーんとも思っていないから心配なんてしないでね」
「はい……」
(また言われてしまった。ハズレ……)
「今日はね、結婚式で着るドレスの事もあって来たのよ」
ラビー様の家、ラビッツ公爵家はいろいろなお仕事をされているらしい。
「昨日この国に来たばかりで、まだよく分からないだろうけど、シリルとエリザベート様の結婚式はひと月後よ。準備するにはギリギリなの」
「はい」
(結婚式、してくれるんだ……)
「王族の結婚では、代々受け継がれたドレスを着ているからサイズを直すだけなんだけど、エリザベート様は小さいから、新しく作った方が早いかもね。後でシリルに聞いてみるわね、たぶん作るというはずだけど……」
ふふふ、とラビー様は何か思い出した様に笑った。
「そんな……私、少しぐらい大きくても大丈夫です。新しく作るなんて」
「いいのよ、シリルがお金を出すんだから。それより番(つがい)のリングはどうする?」
「つがいのリング?」
「そう、人はしないの? 結婚した二人が指とか首にお揃いの物を着けたりしない?」
「結婚……指輪なら聞いたことがあります」
母さんはしてなかった……もらっていたのかな?
装飾品を着けているところは記憶にない。
「獣人にはね『番』という、ピタリと合う運命の相手がいると言われているの。それに真似て『番のリング』を着けるのよ」
手をかかげ指を見ながら話すラビー様。
「もしかして、シリル様はラビー様の番だったのですか!」
「何でそうなるの⁈ 私が好きなのはルシファだって言ったじゃない。それに『運命の番』は結婚した相手のことよ」
「結婚相手……?」
「だって結婚したんでしょ? その人が番よ」
「えっ、でもお見合いとか、政略結婚……とか(私達みたいに)無理な結婚だったら」
「あのね、エリザベート様。それも一つの運命的な出会いなの。だって会うべくして出会ったんだもの」
どんな出会いでも、出会った人が運命の番……。
だったら、シリル様は私の運命の番ということ?
ラビー様は、ガバッと両手を広げるとまるで舞台女優の様に叫んだ。
「私もそう、たまたまラビッツ公爵家に生まれて、すぐ近くにルシファがいた。これこそ運命よっ!」
「シリル様もいましたよね?」
「……シリルもいたけど……あっ!」
「……?」
急に私に向け頭を下げるラビー様。
ふわふわの白い耳がペタンと折れる。
顔を上げると、赤い目が戸惑う様に私を見つめていた。
「私、シリルとキスした事があるの。軽くなんだけど……嫌でしょ? 私達、兎獣人は挨拶みたいな感じで誰とでもすぐにキスするけど、人は違うでしょ?」
軽いキス……それってどんなの?
キスって違いがあるの?
「エリザベート様、だから私の弟には、特に気をつけてね。一番危ないのはメイナードよ、歳は私の一つ下の十九歳。残りの七人はまだ理性があるから大丈夫だと思うけど。とにかく、私と同じ耳を見たら隠れるのよ……あ、匂いでわかっちゃうか……」
「匂い?」
やっぱり、私って臭いの?
不安になり、クンクンと手首を匂ってみるが、自分ではよくわからない。
私の様子を見ていたラビー様はクスクスと笑いだした。
「あのね、エリザベート様は……臭い訳じゃないわ、危険なのよ」
「危険な匂い?」
驚いて目を見開く私。
笑っていたラビー様は、真剣な顔になり目を顰めた。
「……そうね、いろんな意味で危険な匂いよ」
それって……どんな匂い⁈
尋ねようとしたが、ラビー様は話題を変えてしまった。
「番のリングはいろんな物があるけど、エリザベート様はどんな物がいいかしら? 別れない限り付けたままだからあんまり大きくない方がいいと思うけど」
「別れる? 番でも別れるんですか⁈ 」
「どんな物でもいつかは壊れる時が来るでしょ? どんなに運命的に結ばれたってダメになる事はあるわよ。えっ、人は別れないの?」
「いえ、別れることはあります」
「でしょ? 生き物は皆同じね! 心は変わっていくものよ、でも私はずっとルシファが好きなんだけど」
それからラビー様はどんなにルシファ王子様の事が好きかを話しながら、私の体を採寸していった。
ラビー様が指をクルクルと回すと、空中に紙とペンが出てくる。
そのペンは、一人でにサラサラと何かを紙に書いていく。
書かれたそれを、ラビー様が確認して頷くと、紙とペンはパッと消えた。
「……すごい」
「ふふっ、私のラビッツ家はね、元王族なの。だから魔力も強いのよ」
「どうして今は公爵なのですか?」
「ご先祖様はね、自由な人だったの。昔はマフガルド家と一緒に王様をやってたらしいけど、王様って好き勝手出来ないじゃない。あっちは真面目なのよ、それで、王様の仕事は全部マフガルド家に任せたらしいわ」
採寸を済ませたラビー様は、じゃあね! とウインクすると帰って行った。
ラビー様も、充分ご先祖様の気質を受け継いでいる様だ。
……ラビッツ家も元王族……。
ラビー様が部屋を出ると、モリーさんは急いで扉に鍵を掛けていた。
「はあ……そうでした。メイナード様が一番危ないんだった」
「モリーさん、どうしたんですか?」
モリーさんは扉の前をウロウロと歩いている。
「いえね、マフガルド家の王子様達は秩序を守ってくれると思うんです。私もここにいる訳ですし……ただねぇ」
「……はい?」
「メイナード様は手が早い‼︎」
「手が早い?」
「気をつけないとあっという間に孕らせられてしまいます」
「……それは……私もですか?」
「……‼︎ もちろんです! 今一番危険なのはエリザベート様ですよっ!」
「人なのに?」
ほとんどの獣人は『人』を嫌っているとマフガルド王は言っていた。
メイナード様は珍しい獣人なのかしら……?
「メイナード様に関して、種族や見た目は問題ありません。『女性』である、それイコール子作りなのです」
……すごい。
そんな人、近くにいた事がない。……危ない人だ。
獣人って、さっき聞いた『番』だけを愛するのかと思ってた。
でも、私の相手がメイナード様だったらメリーナを助けに行く日も早くなったかも知れない……。
……いや、私には無理だ。
誰にでも手が早い人なんて、まるでリフテス王と同じ。
父親だけど、あの人は嫌い。
母さんを放って置いて、メリーナを人質にとる非情な人だもの。
一日も早く子供を連れてリフテスへ帰り、メリーナを助けたい。
そう思っているけれど、でも……出来ることなら好きな人の子供を生みたい。
考えたら複雑な気持ちになってしまった。
「マフガルド家とラビッツ家は家族も同然なのです。シリル様とラビー様は歳も近く、兄妹の様にお育ちになられましたが、ある日ラビー様がいつもの調子で軽い感じでキスをされ、結婚しよーねと言われて……シリル様は真面目な方ですので、まぁ、勘違いをされてしまって……」
「そ、そうですか」
(随分詳しい……モリーさんは見ていたの?)
「シリル様はそれは清らかなお心をお持ちの青年なんです。決して悪い方ではございません! 背も高く、力も強くその上優しい方なのです」
なぜか必死にシリル様の良いところを話しだすモリーさん。
けれど、無理ですよ、シリル様は私の事嫌いなんですから。
「まだ、一晩しか経っておりませんが、エリザベート様はシリル様をどう思われますか?」
「とても美形な方だと思いますが……」
「まあっ‼︎ 」
「私は嫌われているので……」
「えっ⁈ 」
「結婚はするけど、触ることはないと言われていますし」
「あっ、それは……」
「いえ、せっかく結婚してもらうんです。好きになってもらえる様にがんばってみます。こうして出会えたのも運命のようですから……」
そうじゃないとメリーナを助けられないもの
「まあっ……」
私の本心を知らないモリーさんは、凄く喜んでいた。