狂おしいくらいの激情を…貴女に
「━━━━━んん…」
ゆっくり絋琉が目を覚ます。

可愛らしい女の子(当時・9歳の青蘭)が、覗いていた。

「あ、起きた!
大路ー、大路ー!」

「はい!
お嬢様、どうされ━━━━あ、目を覚まされたみたいですね」
「うん」

「大丈夫ですか?」
今度は大路が、覗き込んでくる。

「あ…あぁ……ここ…は…?」

「ここは、宝来家の屋敷の中です。
貴方、屋敷前で倒れたんですよ?
怪我をされてたので、宝来の専属の医師に診てもらったところ、傷は大したことないそうです。
しかし、軽い栄養失調だそうですよ。
今、食事をご用意してますので、少しでも食べた方がいいかと」

「宝来……宝来って“あの”?」

「はい」

「す、スゲー……」
そう言われて、周りを見渡す。
壁、家具、壁にかけられた絵……部屋内の全てが高級で品がある。

自分が寝ているベッドも、ふかふかして気持ちいい。

不意に視線を感じ、そちらを見ると青蘭がジッと見つめていた。
「な、なんだよ…」

「お兄さん、綺麗…」
「え……」
瞳をキラキラさせて言う青蘭に、絋琉は心が温かくなるのを感じていた。


“帰るところがない”と話すと、宝来邸の当主・宝来 重富(しげとみ)が言う。

「君のことは調べたよ。
どうする?
宝来に、人生を捧げてみないか?」
と━━━━━━━

この言葉で、絋琉の第二の人生が始まった。


青蘭は絋琉にかなり懐いていて、何処に行くにも絋琉にくっついていた。

絋琉もそんな青蘭を、とても可愛がっていた。
専属の執事になるのも、時間の問題だった。

今思えば、この頃から既に心が奪われていたのかもしれない。

青蘭は、歳を重ねるにつれてとても美しくなっていく。
絋琉の心は、日に日に奪われていく。

しかし、所詮自分は使用人。
主人である青蘭に想いを寄せるなんて、許されないことだ。

ぶつけることのできない禁断の想い。

絋琉は自分の胸に胡蝶蘭の刺青を彫り、ブルーのピアスをつけ身体に“青蘭”を刻み付けた。

そして、早朝と夜更けに忍ぶように青蘭の部屋を訪れ、寝顔を見つめるようになったのだ。

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